「AI問診って何ですか?」歯科医療の未来を一緒に考えてみませんか

「先生、AI問診って何ですか?機械に診察されるんですか?」
先日、70代の患者さんに受付でこう聞かれました。
文京区で歯科医院を開いて20年になる、歯科医師の小田切陽子です。

この記事では、AI問診の仕組みと歯科で役立つ場面、気になる点、上手な答え方をお話しします。
先に結論を言うと、AI問診は「聞き取り上手な助手」で、診断するのはこれまでどおり歯科医師です。

AI問診とは?紙の問診票との違い

初めての歯医者さんで、待合室でバインダーに挟んだ問診票を書いた経験は、どなたにもありますよね。
AI問診は、あの問診票にタブレットやスマートフォンで答える仕組みです。
ただ、紙が画面に置き換わっただけのものとは少し違います。

答えに合わせて次の質問が変わる

紙の問診票は、誰に対しても同じ質問が並んでいます。
AI問診では、答えた内容に合わせて、次に何を聞くかをAIが選んでいきます。
たとえば「冷たいものがしみる」と答えた方には、しみるのは一瞬かしばらく続くか、どのあたりの歯か、と質問が枝分かれしていくんです。

診療室でいえば、ベテランの歯科衛生士が患者さんの話を聞きながら「それ、夜も痛みます?」と聞き足していく、あの感じに近いですね。
質問の数や中身も、来院の目的や症状によって変わります。

回答は歯科医師が読みやすい形にまとまる

患者さんが答えた内容は、カルテに書きやすい文章に整えられて、私たちの画面に届きます。
「ズキズキして夜も眠れない」という答えが、痛みの強さや続いている期間として整理されるイメージです。
診察室に入る前にそれを読めるので、最初の数分を「今日はどうされました?」の聞き直しに使わずに済みます。

紙・Web問診・AI問診の違い

似た言葉に「Web問診」もあるので、違いを表にしておきますね。

紙の問診票Web問診AI問診
答える場所待合室自宅や待合室自宅や待合室
答える道具紙とペンスマホ・パソコンスマホ・タブレット
質問の中身全員同じ基本は全員同じ答えに合わせて変わる
医院に届く形手書きの用紙入力されたデータ整理された文章

Web問診とAI問診の境目は、製品によってはあいまいです。
「質問が決まっているか、答えによって変わるか」を目安にしていただければ十分ですよ。

歯科の診察室でAI問診が役立つ場面

ここからは、歯科医の目から見て「これは助かる」と感じている場面をご紹介します。

「いつから・どこが・どう痛いか」を落ち着いて答えられる

歯が痛くて駆け込んできた患者さんに、痛み始めた日を伺っても、はっきり答えられないことがよくあります。
痛みがあるときに頭が回らないのは当たり前なんです。
ご自宅で落ち着いて答えていただくと「3日前から、右下の奥で、噛むと響く」といった情報がそろいやすくなります。

飲んでいるお薬や持病の伝え忘れを防ぐ

歯科の問診で、私がいちばん気にかけているのがここです。
たとえば血液をサラサラにする薬や骨粗しょう症の薬は、抜歯などの処置の進め方に関わってきます。

日本有病者歯科医療学会のよくある質問では、血液をサラサラにする薬を飲んでいても、ほとんどの場合は薬をやめずに抜歯できると説明されています。
一方で、ビスフォスフォネート製剤という骨粗しょう症の薬を使っている方は、抜歯のあとに、まれにあごの骨が壊死することがあるとも書かれています。
どちらも、歯科医師が前もって知っていれば準備できる話です。

紙の問診票だと、持病の欄の「なし」に丸をつけて終わる方が少なくありません。
「内科に通っていますか」「注射で使っているお薬はありますか」と角度を変えて聞き直してくれるAI問診なら、思い出すきっかけが増えます。

口に出しにくい悩みも、入力なら伝えやすい

口臭が気になって来院したのに、診察室では「定期検診で」とだけおっしゃる方がいます。
入れ歯が合わなくて恥ずかしい、実は歯医者さんが怖くてたまらない、というお気持ちも、面と向かうとなかなか言葉になりません。

医療機関向けにAI問診を提供しているUbieも、ユビーAI問診の紹介ページで、医師を前にすると話しづらいこともタブレットなら入力しやすい点を挙げています。
先に知っておけば、こちらも言葉を選んでお話しできます。

気になるところも正直にお話しします

便利な話ばかりしても、かえって信用できませんよね。
患者さんからよく聞かれる心配ごとにもお答えしておきます。

AIが診断を下すわけではない

厚生労働省は2018年の通知「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラムの利用と医師法第17条の規定との関係について」で、AIは医師の判断を支える道具にすぎず、診断や治療の主体は医師で、最終的な判断の責任も医師が負うと整理しています。
この通知は医師についてのものですが、歯科でも考え方は変わりません。
お口の中を診て、レントゲンを読んで、治療を決めるのは私たち歯科医師です。

AI問診の結果だけで治療方針が決まることはないので、そこは安心してくださいね。

スマホが苦手なら紙を選んでかまわない

冒頭の70代の患者さんは、説明を聞いたあと「じゃあ私は紙でいいわね」と笑っておられました。
それで、まったく問題ありません。
AI問診は質問の数が多くなることもあって、画面の操作に慣れていない方には負担になりがちです。

紙の問診票を残している医院も多いですし、受付のスタッフと一緒に入力する方法もあります。
ご家族が代わりに入力するときは、ご本人に一つずつ確認しながら答えてもらえると助かります。

入力した情報の扱いは遠慮なく聞いていい

どの会社のサービスを使い、データをどこに保存しているかは、医院ごとに違います。
気になる方は、受付で「このデータは何に使われますか」と聞いてみてください。
患者さんにきちんと説明できる状態で導入するのが、医院側の務めだと私は思っています。

AI問診に上手に答えるコツ

せっかく答えるなら、診察に役立つ形で伝わるほうがいいですよね。
診療室で「これがあると本当に助かる」と感じるポイントをまとめました。

答える前にそろえておきたいもの

  • お薬手帳(飲み薬だけでなく、注射や貼り薬も)
  • 健康診断や血液検査の結果(糖尿病で通院中の方は特に)
  • 以前通っていた歯医者さんの名前と、最後に行ったおおよその時期
  • 妊娠中・授乳中かどうか、アレルギーがあるかどうか

お薬手帳が見当たらないときは、マイナポータルで自分の薬の履歴を確認できます。
マイナポータルのよくある質問によると、診療・薬剤情報は過去5年分を見られます。
ただし2021年8月以前の分は対象外なので、昔から飲んでいるお薬はご自身の記憶も頼りにしてくださいね。

迷ったら自由記入欄に自分の言葉で

選択肢の中にぴったりのものがなくて、手が止まってしまう方もいます。
そういうときは無理にどれかを選ばず、自由記入欄に「どれにも当てはまらない気がする」と書いていただければ十分です。
そのひと言があれば、診察室で私から詳しく伺います。

お子さんの分をご家族が答えるとき

保護者の方が代わりに答えるときは、お子さん本人が言っていることと、ご家族が見て気づいたことを分けて書いてみてください。
「本人は左が痛いと言うけれど、右側でばかり噛んでいるように見える」といった書き方です。
転んで歯をぶつけた場合は、日時と、どこにぶつけたかも書き添えてもらえると、診察がぐっとスムーズになります。

これからの歯科医療はどう変わる?

最後に、少し先の話を一緒に考えてみませんか。
ここからは、診療室に立つ一人の歯科医としての見立てです。

問診は「書く時間」から「確かめる時間」へ

国も、医療機関どうしで診療情報を共有する仕組みづくりを進めています。
お薬の履歴や持病の情報が自然と手元にそろうようになれば、問診で一から書いてもらう部分は減っていくはずです。
そうなると、診察室での会話は、集まった情報を患者さんと一緒に確かめる時間に変わっていくと私は考えています。

機械では拾えないものがある

以前、問診票の持病欄がすべて「なし」だった60代の女性がいました。
歯ぐきの腫れについてお話しするうちに、お母さまの介護で自分の歯みがきまで手が回らない毎日だと打ち明けてくださったんです。
その日は治療よりも、無理なく続けられる歯みがきの方法を一緒に考えることに時間を使いました。

こういう話は、選択肢のある画面からはなかなか出てきません。
聞き取りの一部をAIに任せられれば、そのぶん、こうした話にじっくり耳を傾ける時間が作れます。
AI問診に私が期待しているのは、実はそこなんです。

まとめ

AI問診は、答えに合わせて質問を変えながら、患者さんの状態を歯科医師に分かりやすく届けてくれる仕組みです。
診断をするのはAIではなく、これまでどおり歯科医師です。
お薬や持病の伝え忘れを防げること、言いにくい悩みを伝えやすいことは、歯科ではとくにありがたいと感じています。

スマホが苦手な方は紙を選んでかまいませんし、データの扱いが気になれば受付で聞いてください。
答えるときは、お薬手帳を手元に置いて、迷ったら自分の言葉で書く。
それだけで、診察の中身はずいぶん変わります。

次に歯医者さんでAI問診を勧められたら、「診察室に入る前の予習」くらいの気持ちで試してみてくださいね。
使ってみて感じたことを、ぜひかかりつけの歯科医にも聞かせてください。
患者さんの声が、これからの歯科医療をつくっていくと思っています。

Related Posts