抜歯後の過ごし方、これだけは守ってほしい5つのこと

抜歯をした日の夕方、「血が止まらないんです」とお電話をいただくことがあります。
お話をうかがうと、たいていはガーゼを何度も外して、鏡で穴をのぞいていらっしゃる。
その確認そのものが、止血をふりだしに戻しているのです。

はじめまして、小田切陽子と申します。
東京医科歯科大学の歯学部を出て歯科医院に勤めたあと、2004年から文京区で「おだぎり歯科クリニック」を開いております。
抜歯後にお渡しする注意事項の紙は、どこの医院でも項目がびっしりで、読むだけで気が重くなりますよね。
この記事では、20年あまり診てきて「ここを守れなかった方はほぼ必ず痛い目にあう」と感じた5つに絞ってお話しします。

抜歯後の過ごし方は、傷にできる「血餅」を守れるかで決まります

抜歯後の注意事項は、ばらばらの決まりごとに見えて、じつは全部ひとつの目的でつながっています。

抜いた穴には、血餅というかさぶたができます

歯を抜いたあと、その穴には血がたまります。
その血が数時間かけてゼリー状に固まったものを、血餅(けっぺい)と呼びます。
指先を切ったときのかさぶたと、役目はまったく同じです。

血餅は、むき出しになった骨と神経に蓋をして、食べかすや細菌が触れないように守ってくれます。
これがある間、傷は下から静かに埋まっていきます。

血餅が外れると「ドライソケット」になります

血餅がはがれると、あごの骨が口の中にそのまま露出します。
これがドライソケットです。
抜歯から2〜4日ほど経って、いったん引いた痛みがぶり返し、耳やこめかみまで響く鈍い痛みが続きます。

日本口腔外科学会も歯を抜いたがあとの治りが悪いというページで、治りが悪くなる原因に「抜歯後の頻回のうがい」を挙げています。
これから挙げる5つは、すべて「この血餅を落とさない」ための工夫だと思ってください。

1つめ:ガーゼは20〜30分、途中で外さずに噛み続けてください

ここでの止血がうまくいくかどうかで、その日の夜の過ごしやすさがはっきり変わります。

抜いた穴の真上に、圧がかかるように噛みます

ガーゼは、口に入れておくだけでは効きません。
抜いた穴の真上に乗って、そこへ体重をかけるように圧が加わっている必要があります。

小さく硬めに丸めたものを抜いた場所の真上に置き、しっかり噛みしめてください。
横になるよりも、椅子に腰かけて頭を起こしているほうが血の勢いは落ち着きます。
そしてこの20分から30分は、外して確認しないと約束していただきたいのです。
固まりかけた膜を毎回めくることになり、いつまでも止まりません。

にじむ程度の血は、当日いっぱい続きます

翌朝、枕に血がついていたと驚かれる方がよくいらっしゃいます。
唾液は少量の血が混ざるだけで赤く染まるので、実際より多く見えるのです。
うすいピンクに色づく程度なら、様子を見ていただいて構いません。

帰宅後に気になるときは、清潔なガーゼやティッシュを小さく硬く丸めて、もう一度噛んでください。
東京女子医科大学病院の歯科口腔外科も、親知らずの抜歯のページで「清潔なコットンやガーゼを小さく切って丸め、抜歯した部分において10分程度強めに噛んでください」と案内しています。
10分から15分ほど噛んで落ち着けば、まず心配はいりません。

2つめ:当日のうがいは、思い切ってやめてください

これは私が診療室でいちばん力を込めてお願いしていることで、いちばん守っていただけないことでもあります。

「ゆすいで清潔に」が裏目に出ます

血の味がする、口の中が気持ち悪い、傷なのだからきれいにしたい。
どれも無理のない気持ちで、日ごろの手入れが行き届いている方ほど強く出ます。
以前、几帳面な60代の男性が心配のあまり夜のうちに何十回もゆすいでしまい、3日後にドライソケットで戻ってこられました。

固まりかけた血餅は、水流ひとつで簡単に流れます。
抜歯当日は、口をゆすがない。
血の味は水を少し飲んで薄める程度でしのいでください。

翌日以降も、勢いよくブクブクとゆすぐのはまだ早いので、水を口に含んで、頬を動かさずに静かに吐き出してください。
茶碗の水を傾けて捨てるような感覚が近いと思います。

舌や指で、穴をさわらないでください

無意識にやってしまうのが、舌での確認です。
くぼみが気になって舌先でなぞったり、糸の結び目を引っかけてしまう方もいらっしゃいます。
先ほどの東京女子医科大学病院のページにも、傷口を手や舌で触れて刺激を与える行為は避けるようにと書かれています。

歯みがきは、抜いた場所だけ毛先を当てないようにして、ほかの歯はいつもどおり続けてください。
磨かずに放っておくほうが、口の中の細菌は増えてしまいます。

3つめ:血のめぐりを良くすることは、明日にまわしてください

抜歯当日の失敗の多くは、体を温めたり、めぐりを良くしたりする行動から起きます。

お風呂はシャワーで切り上げます

湯船にゆっくり浸かると血圧と血流が上がって、いったん止まった傷から再び血がにじみます。
抜歯当日は、ぬるめのシャワーで手早く済ませてください。
翌日以降、出血が落ち着いていれば入浴して構いません。

お酒と激しい運動は、当日は見送ります

お酒は血管を広げますし、痛み止めとの相性もよくありません。
ジョギングや筋トレのような運動も、当日は避けてください。
東京女子医科大学病院の案内にも「抜歯当日は激しい運動や長時間の入浴、飲酒は控えましょう」と明記されています。
お子さんの送り迎えや買い物程度の外出なら、差し支えありません。

たばこは、できれば数日空けてほしいのです

喫煙は、私が最も治りを遅らせると感じている習慣です。
吸い込む動作で口の中が陰圧になって血餅を持ち上げますし、煙の成分そのものが傷の治りを邪魔します。

厚生労働省のe-ヘルスネットは喫煙と歯周病の関係の中で、吸収されたたばこの有害物質が血管を収縮させ、歯ぐきの血流量を減らすと説明しています。
せめて抜歯当日と翌日だけは我慢していただけると、治りがまるで違います。

4つめ:麻酔が切れてから、やわらかいものを反対側で

食事は質問がいちばん多く、「気をつけていたのに痛くなった」の原因が隠れているところです。

麻酔中の食事が、もう一つのけがを作ります

歯科の局所麻酔は、ふつうの浸潤麻酔で1〜3時間ほど効いています。
その間、唇や頬、舌の感覚はほとんどありません。

感覚がないまま食べると、自分の頬や舌を噛んでも痛みに気づけません。
麻酔が切れてから、抜歯の傷とは別の場所に口内炎のような傷ができていて驚く。
熱いお茶の温度も分かりませんから、唇をつまんで左右同じように感じられるようになってから食べ始めてください。

ストローで吸うと、血餅が持ち上がります

飲み物そのものは、麻酔中でも少しずつ飲んでいただいて大丈夫です。
脱水は治りを遅らせるだけですから、常温の水はむしろ積極的に摂ってください。

ただし、ストローは使わないでください。
吸う動作は口の中を陰圧にするので、たばこと同じ理屈で血餅を引きはがす力になります。
コップから、傷のない側へゆっくり流し込むように飲んでください。

当日から1週間の食べ物の目安

診療室で聞かれたときは、いつもこんな順番でご説明しています。

時期食べやすいもの避けたいもの
当日(麻酔が切れてから)おかゆ、豆腐、茶碗蒸し、ヨーグルト熱いもの、辛いもの、アルコール
2〜3日目煮込んだうどん、卵料理、白身魚せんべい、ナッツ、堅いパンの耳
4日目〜1週間ふつうの食事に近づける米粒や種が穴に入りやすいもの

味の濃いものや香辛料は、傷にしみるだけでなく血流も上げます。
それと、抜いた側で噛まないこと。
これだけでも痛みの出方はかなり変わります。

私も和菓子作りが趣味なので、甘いもので気を紛らわせたい気持ちはよく分かります。
ただ抜歯直後の羊羹はあごに負担がかかりますから、そこは水ようかんを選んでください。

5つめ:薬は、痛くなる前と、最後の一錠まで

袋のとおりに飲むだけの話に見えて、ここでつまずく方がかなりいらっしゃいます。

痛み止めは、麻酔が切れる前に一度飲みます

痛くなってから飲むと、効き始めるまでの30分がとてもつらくなります。
麻酔が切れかける前、抜歯から1〜2時間くらいで一度飲んでおくと、痛みの立ち上がりをずいぶん抑えられます。

処方された間隔は必ず守ってください。
効かないからと自己判断で早めに追加すると、胃や腎臓に負担がかかります。
指示どおり飲んでも痛みが強いときは、追加ではなく医院に連絡していただくほうが安全です。

抗菌薬は、途中でやめないでください

腫れや感染を防ぐために抗菌薬が出ることがあります。
2日ほどで楽になるので、残りを引き出しにしまってしまう方が本当に多いのです。

AMR臨床リファレンスセンターは処方された抗菌薬は医師の指示通り服用しましょうというページで、症状が良くなっても原因の細菌を退治しきったわけではないと説明しています。
途中でやめると再発するおそれがあり、生き残った菌から薬の効かない耐性菌が生まれることもあります。
出された分は、痛みがなくなっても最後まで飲み切ってください。

冷やすのは当日だけにします

冷却が役に立つのは、腫れが出そろうまでの当日だけです。
保冷剤をタオルで包んで頬に10分当てて10分休む、これをその日のうちに数回で充分です。
腫れのピークは2〜3日目に来ますが、そこから先は蒸しタオルで軽く温めたほうが引きが早くなります。

この症状が出たら、我慢せずに連絡してください

体の反応には幅がありますから、線引きの目安もお伝えしておきます。

その日のうちにご連絡いただきたいこと

  • ガーゼで圧迫しても勢いのある出血が続く、口の中に血の塊ができる
  • 痛み止めを指示どおり飲んでもほとんど効かない
  • 抜歯から3日以上たって、いったん引いた痛みが強くぶり返してきた
  • 38度前後の熱が出た、飲み込むときに痛くて水が通りにくい
  • 腫れが目の下やあごの下まで広がってきた、口が指2本分も開かない

3日目以降の痛みの逆戻りは、ドライソケットや感染のサインとして代表的なものです。
早めにおいでいただければ、洗って薬を詰めるだけで痛みはかなり楽になります。

心配しなくていいこと

唾液がうすく赤い、頬が腫れて顔の形が変わって見える、口が開きにくい。
これらは抜歯後の経過としてよくあることで、日を追って軽くなっていきます。
日本口腔外科学会の手術、手技に関してというページにも、抜歯後は患者さん自身が注意することが多いと書かれています。
医院でお渡しした紙は、冷蔵庫にでも貼っておいてくださいね。

まとめ

抜歯後に守っていただきたいことを、もう一度並べておきます。

守ることいつまで何のために
ガーゼを外さず20〜30分噛む抜歯直後血餅を作る
うがいをしない、傷をさわらない当日いっぱい血餅を落とさない
長湯、お酒、運動、喫煙を控える当日〜翌日血流を上げない
やわらかいものを反対側で食べる当日〜数日傷とけがを増やさない
痛み止めは早めに、抗菌薬は飲み切る処方された分痛みと感染を抑える

書き出すと厳しく見えますが、いちばん神経を使うのは抜いた当日だけです。
その一日をおとなしく過ごせた方は、翌日からの回復がまるで違います。

生け花で切った枝は、切り口を触らずにそっと水に入れておくと驚くほど長く持ちます。
抜歯後の穴も、それと同じだと思っています。
何かしてあげたくなる気持ちを、一日だけ手放してみてください。
心配なことがあれば、遠慮なくかかりつけの歯科医院にお電話を。
私たちは、そのために電話番号をお渡ししています。

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