「うちの子、受け口かも?」気になる子どもの歯並び、いつ相談すべき?

「下の歯が前に出ている気がして……」。
仕上げ磨きのときにふと気づいて、不安になっていませんか。

歯科医師の小田切陽子です。
開業から20年、同じご相談を数えきれないほど受けてきました。

結論からお伝えすると、相談の目安は乳歯が生えそろう3歳ごろです。
ただし、すぐに治療が必要とは限りません。
この記事では、受け口の原因と様子を見てよいケース、相談のタイミングと治療法をまとめました。

受け口(反対咬合)とはどんな歯並び?

下の前歯が上の前歯より前に出ている状態

奥歯でカチッと噛んだとき、ふつうは上の前歯が下の前歯に少しかぶさります。
これが逆になり、下の前歯が上の前歯より前に出ている噛み合わせを「受け口」と呼びます。
歯科の言葉では反対咬合、または下顎前突といいます。

見た目の問題と思われがちですが、実はそれだけではありません。
日本矯正歯科学会によると、受け口は前歯でうまく噛めないだけでなく、聞き取りにくい話し方になることが多いとされています。
噛む機能と発音、その両方に関わる歯並びなんですね。

原因は「歯の傾き」と「あごの骨格」の2タイプ

受け口の原因は、大きく2つに分かれます。
前歯の生える向きや傾きに問題があるタイプと、下あごが大きすぎる、あるいは上あごが小さすぎるという骨格のタイプです。

歯の傾きが原因なら、比較的シンプルな装置で改善しやすい傾向があります。
一方、骨格が関係している場合は、あごの成長が落ち着くまで長く経過を追う必要があります。

どちらのタイプかは、見た目だけでは判断がつきません。
だからこそ、専門家の目で一度確認してもらう価値があるんです。

遺伝だけでなく、舌の位置や癖も関係する

診察室でお母さんに「実は主人も受け口で」と打ち明けられることは、本当によくあります。
受け口には遺伝的な要因が大きく関わっているからです。

ただ、遺伝がすべてではありません。
舌をいつも下の前歯の裏に押し当てている、下あごを前に突き出す癖がある、お口がぽかんと開いている。
こうした日々の習慣も、受け口を助長する要因になります。

小さいお子さんほどあごの骨がやわらかく、癖の影響を受けやすい点は覚えておいてください。
裏を返せば、癖は今日からでも変えられる要因です。
遺伝は変えられなくても、親御さんにやれることはちゃんとあります。

受け口は自然に治る?様子を見ていいケース

乳歯が生えそろう前なら、自然に治ることも多い

1歳半健診で「受け口ぎみですね」と言われて、青ざめて駆け込んでこられる親御さんがいらっしゃいます。
でも、この時期はまだ慌てなくて大丈夫。

前歯しか生えていない1〜2歳ごろは、噛み合わせの位置そのものが安定していません。
乳歯が生えそろう前の受け口は、半数ほどが自然に治るという報告もあります。
奥歯が生えて噛み合わせが決まってくると、下あごの位置が自然に落ち着いてくるお子さんが多いのです。

3歳を過ぎても治らなければ相談のサイン

乳歯20本が生えそろうのは、だいたい2歳半から3歳ごろです。
ここが一つの分かれ目になります。

乳歯が生えそろってもまだ受け口のままなら、そこから自然に治る可能性は高くありません。
下あごは思春期にぐんと成長するため、そのままにしておくと、大きくなってからの治療がぐっと難しくなる場合があります。

受け口のまま成長したときの困りごとは、見た目だけにとどまりません。
前歯で麺を噛み切れない、滑舌が気になって音読の時間が憂うつになる。
思春期の患者さんから、そんな悩みを打ち明けられたことが何度もあります。

「様子を見ましょう」と「放っておきましょう」は違います。
3歳を過ぎた受け口は、一度専門家に見せておくのが安心です。

3歳児健診で「経過観察」と言われたら

3歳児健診の歯科チェックでは、噛み合わせも診ています。
日本小児歯科学会の判定基準では、前歯の連続した3本以上が逆の噛み合わせになっている場合に反対咬合と判定され、経過観察の対象になります。

「経過観察」と聞くと、何もしなくていいのかなと受け取ってしまいますよね。
実際には「かかりつけの歯科医院で、治療の時期や生活習慣について相談してください」という意味合いです。
母子健康手帳にその記載があったら、次の歯科受診のときに見せていただくとスムーズですよ。

様子を見る間、おうちで気をつけたいこと

「相談はしたけれど、いまは経過を見ましょうと言われた」という時期にも、家庭でやれることはあります。
ポイントは、受け口を助長する癖を減らすことです。

お口がぽかんと開いていないか、下あごをわざと前に出して遊んでいないか、まずは普段の様子を観察してみてください。
テレビを見るときの頬杖や、いつも同じ向きのうつぶせ寝も、あごへ余計な力をかける習慣です。
気づいたときに、そっと姿勢を直してあげるだけで十分。

「癖をやめなさい」と叱る必要はありません。
叱られた記憶は、歯医者さん嫌いのもとにもなってしまいますから。

相談するならいつ?年齢別の目安

まずは3歳、乳歯が生えそろったら

年齢ごとの目安を表にまとめました。

年齢お口の状態相談の目安
1〜2歳乳歯が生えている途中基本は様子見でよい時期
3歳ごろ乳歯20本が生えそろう受け口が残っていれば一度相談
5〜6歳永久歯に生え変わる前治療を始めるかどうかの判断どき
小学校低学年前歯が永久歯に生え変わる永久歯でも受け口なら早めに相談

3歳で相談したからといって、その場で治療が始まるわけではありません。
タイプを見極めたうえで「半年ごとに見ていきましょう」となるケースも多くあります。
まずは、わが子の状態を知ることが目的です。

もう一つ気をつけたいのが、小学校低学年ごろの前歯の生え変わりです。
永久歯の前歯が生えてきてもなお逆の噛み合わせなら、そこから自然に治ることはまず期待できません。
この段階の受け口は、様子見ではなく治療を前提に相談していただきたいタイミングです。

5〜6歳は、あごの成長を利用できる時期

矯正というと歯を動かす治療を想像されますが、子どもの受け口治療の主役は「あごの成長のコントロール」です。
上あごの成長を促したり、下あごの成長の方向を整えたり。
成長の力を借りられるのは、子どものうちだけの特権です。

日本矯正歯科学会も、矯正治療は成長・発育期に行うのがよいとしています。
ただし小さすぎると治療への協力が難しいため、ある程度分別のつく年齢からが望ましいという考え方です。
その意味で、5〜6歳は治療を始めるかどうかを判断する大事なタイミングになります。

年齢を問わず、早めに相談したいサイン

次のようなサインがあれば、年齢にかかわらず早めの相談をおすすめします。

  • ご家族に受け口の方がいる
  • 横顔で下あごが前に出て見える
  • 発音が聞き取りにくいと感じることがある
  • 前歯で食べ物を噛み切りにくそうにしている
  • 3歳児健診で「経過観察」と言われた

当てはまるものが多いほど、骨格タイプの可能性を早めに確かめておきたいところです。

子どもの受け口はどう治す?主な治療法

マウスピース型の装置(3〜4歳ごろから)

乳歯の時期の受け口には、寝ている間に装着するマウスピース型の装置がよく使われます。
舌や唇の力のバランスを整えて、下あごを正しい位置に導く仕組みです。

歯を無理に動かすわけではないので、痛みはほとんどありません。
期間は1年から1年半ほどが目安です。

ただし、この治療の成否はお子さん本人の協力にかかっています。
毎晩きちんと着けられるかどうかで、結果が大きく変わるのです。
嫌がって続かないようなら無理強いせず、開始時期を少し遅らせる判断もあります。

私の医院にも、4歳で装置を始めた女の子がいました。
最初の1週間は嫌がっていたのに、お母さんが「歯のおまもり」と名付けたら急に張り切りだして。
半年後には前歯の噛み合わせが逆でなくなり、親子で顔を見合わせて喜んでいた姿をよく覚えています。

あごの成長に働きかける装置(5〜6歳以降)

上あごの成長不足が関わっているタイプには、フェイスマスクという装置を使うことがあります。
おうちにいる時間や就寝中に装着して、上あごの成長を前へ促す治療です。
半年から1年ほどで噛み合わせが改善するお子さんが多くいます。

ただし、骨格が関わる受け口は、噛み合わせが治った後も油断できません。
下あごの成長が続く限り、長い目で経過を見ていくことが前提になります。

つまり、骨格タイプの治療にはゴールが2つあります。
子どものうちに噛み合わせを整えるのが1つ目、身長の伸びが止まるころに最終確認をするのが2つ目です。
この見通しを最初に知っておくと、長い通院にも納得して向き合えます。

治療後の「後戻り」と定期チェック

正直にお伝えすると、受け口は治療後の再発が少なくない歯並びです。
下あごは身長が伸びる思春期に大きく成長するため、一度治っても、成長とともにまた逆の噛み合わせに戻ることがあるのです。

だからこそ、治った後も3〜6ヶ月ごとの定期チェックを続けてください。
また、あごの成長のずれが非常に大きいケースでは、成長が終わってから外科手術を併用した矯正治療が必要になることもあります。
こうした可能性も含めて、最初の相談時に見通しを聞いておくと安心です。

どこに相談する?歯科医院選びのポイント

かかりつけの小児歯科でも、矯正の専門医でもいい

最初の相談先は、通い慣れたかかりつけの歯科医院で構いません。
小児歯科では、噛み合わせの経過観察や癖の指導も日常的に行っています。
必要と判断されれば、矯正歯科への紹介も受けられます。

最初から専門的に診てもらいたい場合は、矯正歯科の認定医を探す方法もあります。
お近くの認定医は、日本矯正歯科学会の認定医・専門医検索ページで地域別に調べられます。

初回相談で伝えるとよいこと

初回相談では、お子さんのお口の状態に加えて、背景の情報がとても役に立ちます。
ご家族の歯並びの傾向、指しゃぶりや口呼吸などの癖、健診で指摘された内容をメモしていくと、診断の精度が上がります。

あわせて、こちらから聞きたいことも用意しておきましょう。

  • 歯の傾きと骨格、うちの子はどちらのタイプか
  • いま治療を始めるべきか、様子見でよいか
  • 治療する場合の装置、期間、総額の見通し
  • 治療しなかった場合、どうなる可能性が高いか

この4つを聞いておくと、帰り道の「あれも聞けばよかった……」がぐっと減りますよ。

費用の考え方も先に知っておく

お金の話も、避けずにお伝えしておきますね。
子どもの矯正治療は、原則として保険がきかない自費診療です。
装置の種類や治療の範囲によって金額の幅が大きいため、初回相談で総額の見通しと支払い方法を必ず確認してください。

例外的に保険が適用されるのは、国が指定する先天性の疾患がある場合や、あごの手術を伴う顎変形症の治療などに限られます。
詳しくは日本矯正歯科学会の矯正歯科治療が保険診療の適用になる場合のページにまとまっています。

費用や装置の説明を聞いても、その場で決める必要はありません。
「相談すること」と「治療を始めること」は別。
これは診察室でいつも、私が親御さんにお伝えしている言葉です。

まとめ

子どもの受け口は、乳歯が生えそろう前なら自然に治ることも多い歯並びです。
一方で、3歳を過ぎても残っている受け口は、自然に治る可能性が高くありません。
乳歯が生えそろったら一度相談、5〜6歳で治療を始めるかどうか判断。
この2段構えで考えていただくと、慌てずにすみます。

20年診察室にいて感じるのは、一番つらいのは「気になったまま迷い続けている時間」だということです。
相談してみたら「今は様子見で大丈夫」の一言で、憑き物が落ちたような顔をされる親御さんを何人も見てきました。

あなたのその「あれ?」という気づきが、お子さんの一番の味方です。
どうか一人で抱え込まず、近くの歯医者さんに気軽に声をかけてくださいね。

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