「歯石取り、痛いのはなぜ?」歯科衛生士さんと一緒に解説します

「先生、歯石取りって、どうしてあんなに痛いことがあるんですか?」

これは、私がクリニックの診療室で、患者さんから本当によくいただく質問の一つです。

こんにちは、歯科医師の小田切陽子です。
文京区で開業して20年、たくさんの患者さんのお口の健康と向き合ってきました。

歯石取りが大切なのは分かっているけれど、あの「キーン」という音や「チクチク」する痛みが怖くて、つい足が遠のいてしまう…。
そのお気持ち、とてもよく分かります。

この記事では、なぜ歯石取りで痛みを感じることがあるのか、その原因を皆さんと一緒に、そして現場のプロである歯科衛生士さんの声も交えながら、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。

この記事を読み終える頃には、きっと痛みへの不安が和らぎ、「よし、次こそは!」と前向きな気持ちになっていただけるはずです。

目次

そもそも歯石取り(スケーリング)とは?歯科衛生士さんが行うプロのケア

まずは基本の「き」からお話ししましょうね。
歯石取り、専門用語では「スケーリング」と言いますが、これが一体どんなものなのかを知るだけでも、不安は少し和らぐものですよ。

歯石の正体は「細菌のすみか」

歯石と聞くと、単なる歯の汚れ、食べかすの固まりだと思っていませんか?
実は少し違うんです。

歯石の元になるのは、歯の表面に付くネバネバした「歯垢(プラーク)」。
これが磨き残されると、唾液に含まれるカルシウムなどと結びついて、カチカチに固まってしまいます。
これが歯石の正体です。

私はいつも患者さんに、「歯石は、歯周病菌たちにとって格好のすみか、まるで細菌たちのアパートのようなものですよ」とお伝えしています。
このアパートを放置しておくと、中でどんどん細菌が繁殖して、歯ぐきに炎症を起こしたり(歯周病)、嫌なニオイ(口臭)の原因になったりするんです。

歯科衛生士さんが使う「スケーラー」ってどんな道具?

歯石取りでは、「スケーラー」という専用の器具を使います。
これには大きく分けて2種類あるんですよ。

一つは「超音波スケーラー」。
これは、超音波の力で細かく振動して、硬い歯石を効率よく砕いてくれる機械です。
皆さんが怖がる「キーン」という音や特有の振動は、この器具から出ています。
でも、歯を削っているわけではなく、歯石だけに反応してパワフルに働いてくれる優れものなんです。

もう一つは「ハンドスケーラー」。
これは、歯科衛生士さんが手で持って、一本一本の歯を丁寧にお掃除するための器具です。
超音波スケーラーでは届かない細かい部分や、歯周ポケットの奥深くの歯石を、繊細な感覚で取り除いていきます。

この2つを巧みに使い分けるのが、歯科衛生士さんのプロの技なんですね。

【原因別】歯石取りで痛みを感じる5つの主な理由

では、いよいよ本題です。
なぜ、歯石取りで痛みを感じることがあるのでしょうか。
その主な理由を5つ、一緒に見ていきましょう。

原因1:歯ぐきが炎症を起こしている(歯肉炎・歯周病)

これが、痛みの最も大きな原因です。
歯ぐきが赤く腫れていたり、歯磨きで血が出たりすることはありませんか?
それは、歯ぐきが炎症を起こしているサインです。

炎症を起こした歯ぐきは、とてもデリケートな状態。
普段なら何でもないような少しの刺激にも、敏感に反応して痛みを感じやすくなってしまうんです。
特に歯周病が進行していると、歯と歯ぐきの溝(歯周ポケット)の奥に付いた歯石を取る際に、チクッとした痛みが出やすくなります。

原因2:歯石がたくさん付いていて硬くなっている

「久しぶりに大掃除をすると、こびりついた汚れを落とすのが大変ですよね。
お口の中も同じなんです」と、私はよくお話しします。

歯石も、長い間溜め込んでしまうと量が増えるだけでなく、石のように硬くなっていきます。
そうなると、私たちも歯石を砕くために少し力を加えたり、時間をかけたりする必要が出てきます。
その結果、歯や歯ぐきに伝わる振動や刺激が大きくなり、痛みとして感じやすくなるのです。

原因3:歯ぐきが下がり、歯の根が露出している(知覚過敏)

年齢を重ねたり、歯周病が進行したりすると、歯ぐきが少しずつ下がってくることがあります。
すると、本来は歯ぐきに守られているはずの、歯の根っこの部分(象牙質)が露出してしまいます。

この歯の根は、歯の表面(エナメル質)と違って刺激にとても敏感。
ここに器具が触れたり、お水がかかったりすると、「キーン」としみるような痛みを感じることがあります。
これが知覚過敏の正体です。

ときには、歯石が「鎧」のように歯の根を覆っていて、痛みを感じなくさせていることも。
その鎧を取り除いたことで、治療後に「なんだかスースーする!」と一時的にしみやすくなる方もいらっしゃいます。

原因4:虫歯が隠れている

これは意外と知られていない原因かもしれません。
歯石の塊の下に、小さな虫歯が隠れていることがあるんです。

歯石取りの最中に、特定の歯だけがズキッと痛む場合、それは隠れていた虫歯が器具やお水に反応している可能性があります。
痛みは、お口が私たちに教えてくれる大切なサインでもあるんですよ。

原因5:痛みに敏感、あるいは緊張が強い

過去の歯科治療で怖い思いをした経験などから、「歯医者さんは怖い」という気持ちが強い方もいらっしゃいますよね。

不安や緊張で体にギュッと力が入っていると、普段よりも痛みを感じやすくなってしまうことがあります。
これは、心の状態が体の感覚に影響を与えている証拠。
私たち医療者と患者さんとの信頼関係も、実は痛みの感じ方に大きく関わっているんです。

【歯科医師が伝授】痛みを最小限に!歯石取りの前にできること・伝えてほしいこと

「痛いのは分かったけど、じゃあどうすればいいの?」という声が聞こえてきそうですね。
ご安心ください。
痛みをできるだけ小さくするために、皆さんにできること、そして私たちに伝えてほしいことがあります。

事前準備:当日に向けて歯ぐきのコンディションを整えよう

予約日の1週間くらい前からで構いません。
いつもより少しだけ丁寧に、歯と歯ぐきの境目を優しくブラッシングすることを心がけてみてください。

たったそれだけでも、歯ぐきの炎症が少し落ち着いて、当日の出血や痛みが大きく変わることがあります。
ご自身のちょっとした心がけが、治療中の快適さにつながるんですよ。

勇気を出して伝えよう:「痛いのが苦手です」の一言

これは、私から皆さんに一番お願いしたいことです。
治療が始まる前に、ぜひ「痛いのが苦手なんです」と、歯科医師や歯科衛生士に伝えてください。

私たちは、患者さんの表情や力の入り方で「今、痛いかな?」と常に気を配っています。
でも、言葉で伝えてもらえるのが一番確実で、本当にありがたいんです。

そう伝えてくだされば、歯ぐきに塗るタイプの表面麻酔を使ったり、こまめに休憩を挟んだり、痛みの少ない器具を選んだりと、私たちにできる対策がたくさんあります
我慢せずに、ぜひ頼ってくださいね。

治療中の小さな工夫:リラックスできる体勢と呼吸法

治療中は、できるだけリラックスすることが大切です。
緊張すると無意識に呼吸が浅くなりがちなので、鼻から吸って口からゆっくり吐くような、深呼吸を意識してみてください。

肩の力を抜いて、楽な姿勢を保つだけでも、痛みの感じ方は変わってきます。
もしお気に入りの音楽があれば、イヤホンで聴きながら治療を受けるのも良い方法ですよ。

歯石取り後の「ズキズキ」「しみる」…アフターケアで痛みを和らげる方法

頑張って歯石取りを終えた後、今度は「ズキズキする」「水がしみる」といった症状に悩まされることもあります。
そんな時のための、優しいアフターケアについてお話ししますね。

痛みのピークはいつまで?通常は2〜3日で落ち着きます

まず知っておいていただきたいのは、治療後の痛みやしみる症状は、多くの場合、一時的なものだということです。
炎症を起こしていた歯ぐきが治っていく過程で起こる、正常な反応であることがほとんど。
通常は2〜3日、長くても1週間ほどで自然に落ち着いていきますので、あまり心配しすぎないでくださいね。

ただし、痛みがどんどん強くなる、1週間以上経っても全く良くならない、という場合は、何か他の原因があるかもしれないので、必ず治療を受けた歯科医院に連絡してください。

治療当日の食事で気をつけたいこと

治療当日は、歯ぐきが少し敏感になっています。
熱すぎるものや冷たすぎるもの、唐辛子などの香辛料、お酢などの酸っぱいものは、刺激になってしまうことがあるので避けた方が安心です。

おかゆやうどん、スープ、ヨーグルトなど、歯ぐきに優しい食事を選んであげてくださいね。

しみる症状には「知覚過敏用歯磨き粉」がおすすめ

治療後に歯がしみる症状が気になる方には、「知覚過敏用歯磨き粉」を使ってみることをおすすめしています。

これらの歯磨き粉には、硝酸カリウムなどの薬用成分が含まれていて、歯の神経に刺激が伝わるのをブロックしてくれる働きがあります。
すぐに効果が出るものではありませんが、毎日継続して使うことで、少しずつ症状が和らいでいきますよ。

よくある質問(FAQ)

最後に、患者さんからよくいただく質問とそのお答えを、Q&A形式でまとめました。

Q: 歯石取りに麻酔をしてもらうことはできますか?

A: はい、もちろん可能です。
痛みが強いことが予想される場合や、歯周ポケットの深い部分の歯石をしっかり取る際には、歯ぐきに塗るゼリー状の表面麻酔や、場合によっては注射による麻酔を使用することがあります。
痛みが苦手な方は、絶対に我慢せず、治療が始まる前に遠慮なくご相談くださいね。

Q: 歯石取りはどれくらいの頻度で通うのが理想ですか?

A: これは、皆さんのお口の状態によって大きく異なります。
一般的には、3ヶ月から半年に1回が推奨されています。
私のクリニックでは、歯石が付きやすい方や歯周病のリスクが高い方には3ヶ月ごと、お口の状態が安定している方には半年に1回、というように、患者さん一人ひとりに合わせたメンテナンスプランをご提案しています。

Q: 自分で歯石を取る市販の器具は使っても大丈夫ですか?

A: 歯科医師としては、絶対におすすめできません
専門家でない方がご自身で使うと、鋭利な器具で健康な歯や歯ぐきを傷つけてしまう危険性が非常に高いからです。
安全で確実なケアは、ぜひ私たちプロにお任せいただきたいと心から思います。

Q: 歯石取りで歯が削れたり、隙間が大きくなったりしませんか?

A: ご安心ください。
先ほどお話しした超音波スケーラーは、歯石のみに反応して破壊する仕組みなので、健康な歯の表面を削ることはありません。
治療後に歯と歯の間に隙間ができたように感じるのは、そこにびっしり詰まっていた歯石がなくなったためです。
これは、腫れていた歯ぐきが引き締まり、健康な状態に戻っていく良い兆候なんですよ。

Q: 歯科衛生士さんによって痛みが違うことはありますか?

A: 確かに、技術や経験による差が全くないとは言えません。
しかし、痛みを感じる一番の理由は、これまでお話ししてきたように、患者さんご自身のお口の状態にあることがほとんどです。
信頼できる歯科医院では、歯科衛生士の技術研修にも力を入れています。
何より大切なのは、あなたが安心して何でも話せる「かかりつけ」の歯科医院を見つけることですね。

まとめ

歯石取りの痛みについて、長年現場に立つ歯科医師として、そして歯科衛生士さんの声も交えながらお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。

痛みの原因は、主に皆さんのお口の中の状態にあること、そしてその痛みは対策できるということが、お分かりいただけたかと思います。

  • 痛みの主な原因は、歯ぐきの炎症や溜まった歯石にある。
  • 事前に丁寧に歯磨きをするだけでも、痛みは和らぐ。
  • 「痛いのが苦手」と伝える勇気が、何よりも大切。
  • 治療後の痛みやしみは、多くの場合一時的なもの。

大切なのは、痛みを一人で我慢することではありません。
その原因を知り、私たち専門家と一緒に解決していくことです。

この記事が、皆さんの歯石取りへの不安を少しでも和らげ、健康な笑顔への一歩を踏み出すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

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