「この症状、様子を見ても大丈夫?」受診タイミングの見極め方

こんにちは。文京区で歯科医院を開業しております、歯科医師の小田切陽子です。

「あれ、なんだか歯が痛いかも…」
「冷たいものがキーンとしみるけど、一瞬だから大丈夫かな?」
「歯茎から血が出たけど、歯磨きが強すぎただけかしら?」

毎日忙しく過ごしていると、お口の中のちょっとした変化に気づいても、「これくらいで歯医者さんに行くのは大げさかな?」と、つい後回しにしてしまうこと、ありますよね。私のクリニックにいらっしゃる患者さんからも、そんなお声をよく耳にします。

痛いのは誰だっていやですし、歯医者さんが苦手な方もいらっしゃるでしょう。そのお気持ち、とてもよくわかります。

でも、その小さな症状、実はあなたの大切な歯が送っている「SOSサイン」かもしれません。このサインを見逃してしまうと、後でもっと大変な治療が必要になったり、治療期間が長引いてしまったりすることも少なくないのです。

この記事では、日々の診療で患者さんからよくご相談いただく症状をもとに、「これは様子を見ても大丈夫?」「どんな状態になったらすぐに受診すべき?」という疑問にお答えしていきます。あなたの不安が少しでも軽くなり、適切なタイミングで受診するきっかけになれば嬉しいです。

「様子を見ても大丈夫?」受診を決めるための”3つの基本原則”

症状別に詳しく見ていく前に、まずは受診を判断するための基本的な考え方をお伝えします。この3つの原則を頭の片隅に置いておくだけでも、いざという時に落ち着いて行動できますよ。

原則1:痛みがあるなら、基本的には受診を検討

まず一番大切なのは、「痛み」という症状です。
歯や歯茎に痛みがあるということは、そこに何らかの炎症や異常が起きている証拠です。 特に、何もしなくてもズキズキ痛む、痛みがどんどん強くなる、といった場合は、我慢せずに受診を考えてください。

原則2:「自然に治る」はほとんどないと考えましょう

風邪なら「寝ていれば治る」ことがありますが、虫歯や歯周病は、一度進行してしまうと自然に治ることはありません。
「痛みが治まったから大丈夫」と思って放置してしまうと、実は水面下で症状が悪化しているケースが非常に多いのです。一時的に症状が和らいでも、原因が解決されたわけではないことを覚えておきましょう。

原則3:迷ったら電話で相談してみる

「こんなことで受診していいのかな?」と迷ったら、まずはかかりつけの歯科医院に電話で相談してみるのも一つの手です。
症状を伝えれば、歯科医師や歯科衛生士が、すぐに来た方が良いか、少し様子を見ても良いかをアドバイスしてくれます。一人で抱え込まずに、専門家の意見を聞いてみましょう。

【症状別】セルフチェックリスト!すぐに受診すべき危険なサイン

それでは、ここからは具体的な症状別に、受診のタイミングを見極めるためのポイントを詳しく解説していきます。ご自身の症状と照らし合わせながら、チェックしてみてくださいね。

ケース1:歯が痛い・しみる

歯の痛みは、もっとも分かりやすい異常のサインです。痛みの種類によって緊急度が異なります。

《すぐに受診すべきサイン》

  • 何もしなくてもズキズキと脈打つように痛む
  • 夜になると痛みがひどくなり、眠れない
  • 温かいものを口に含むと痛みが強くなる
  • 痛み止めを飲んでも効かない、またはすぐに痛みがぶり返す
  • 噛むと激痛が走る

これらの症状は、虫歯が神経(歯髄)まで達して炎症を起こしている「歯髄炎」や、歯の根の先に膿が溜まっている「根尖性歯周炎」の可能性があります。 放置すると、最終的に歯を抜かなければならなくなることも。我慢せずに、できるだけ早く歯科医院を受診してください。

《数日様子を見ても良いかもしれないサイン》

  • 冷たいものを飲んだ時だけ、一瞬しみる
  • 歯磨きの時に、特定の場所が少ししみる

これは「知覚過敏」の可能性があります。 歯の表面のエナメル質が削れて、内側の象牙質が露出し、刺激が神経に伝わりやすくなっている状態です。 ただし、初期の虫歯でも同じような症状が出ることがあるため、痛みが続く、あるいは強くなるようであれば、早めに受診しましょう。

《ご自宅でできる応急処置》

歯科医院に行くまでの間、痛みを少しでも和らげるための方法です。ただし、これらはあくまで一時的な対処法であり、治療ではありません。

  • 痛み止めを服用する: 市販の鎮痛剤が有効な場合があります。用法・用量を守って使用してください。
  • 患部を冷やす: 痛む方の頬の外側から、濡れタオルや冷却シートで冷やしましょう。血流が抑えられ、痛みが和らぐことがあります。 直接氷を口に含むなど、冷やしすぎは逆効果になることもあるので注意してください。
  • 口の中を清潔にする: ぬるま湯でやさしくうがいをして、食べかすなどを取り除きましょう。

小田切先生のワンポイントアドバイス
「痛いときは温めないでくださいね。お風呂で長湯をしたり、お酒を飲んだりすると血行が良くなって、かえって痛みが強まることがあります。痛い夜は、シャワーで済ませるのがおすすめです。」

ケース2:歯茎が腫れた・血が出る

歯茎のトラブルは、歯周病のサインであることが多いです。 歯周病は自覚症状が出にくいため、気づいた時にはかなり進行していることもあります。

《すぐに受診すべきサイン》

  • 歯茎がパンパンに腫れて、強い痛みがある
  • 顔(頬や顎の下)まで腫れてきた
  • 腫れた部分から膿が出ている
  • 口が開きにくい、ものが飲み込みにくい
  • 発熱や強い倦怠感を伴う

これらの症状は、歯の根の病気や親知らずの周囲で強い炎症(智歯周囲炎)が起きている可能性があります。 細菌が顎の骨や全身に広がる危険もあるため、緊急性が非常に高い状態です。すぐに受診してください。

《早めの受診をおすすめするサイン》

  • 歯磨きのたびに血が出る
  • 歯茎が赤く、ブヨブヨしている
  • 歯が浮いたような感じがする
  • 口臭が強くなった気がする

これらは歯周病の初期〜中等度のサインです。 この段階で適切な治療とケアを始めれば、進行を食い止め、大切な歯を守ることができます。様子を見ずに、一度歯科医院で診てもらうことを強くおすすめします。

《ご自宅でできる応急処置》

  • 安静にする: 刺激を与えないようにしましょう。
  • やさしく口をゆすぐ: 殺菌作用のあるうがい薬を使うのも良いですが、アルコール成分が強いものは刺激になることがあるので注意が必要です。
  • 患部を冷やす: 腫れて熱を持っている場合は、頬の外側から冷やすと楽になることがあります。
  • やわらかい歯ブラシで磨く: 腫れている部分を避けつつ、他の部分は丁寧に磨き、お口の中を清潔に保ちましょう。

ケース3:詰め物・被せ物が取れた/歯が欠けた

痛みがないことも多いため、「また今度でいいや」と放置されがちなトラブルです。しかし、これはとても危険な状態です。

《できるだけ早く受診すべき理由》

詰め物や被せ物が取れた歯、欠けた歯は、いわば「鎧を脱いだ無防備な状態」です。

  • 虫歯が急速に進行する: 詰め物の下は、硬いエナメル質がない象牙質が露出していることが多く、虫歯菌に対する抵抗力が弱い状態です。放置すると、あっという間に虫歯が広がります。
  • 歯が割れてしまう: 歯は詰め物によって強度を保っています。その支えがなくなると、噛む力に耐えきれず、歯が大きく欠けたり、割れたりすることがあります。 最悪の場合、抜歯しか選択肢がなくなることもあります。
  • 噛み合わせがずれる: 放置していると、隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合う相手の歯が伸びてきたりして、全体の噛み合わせが悪くなることがあります。

痛みがないからといって放置せず、1〜2週間以内を目安に必ず受診しましょう。

《やってはいけないNG行動》

  • 取れた詰め物を自分で戻そうとする: 市販の接着剤を使うのは絶対にやめてください。うまく付かないだけでなく、歯や歯茎を傷つけたり、中で細菌が繁殖したりする原因になります。
  • 取れた方の歯で硬いものを噛む: 歯が割れてしまうリスクが非常に高くなります。

《受診までの応急処置》

  • 取れた詰め物は保管する: ティッシュにくるむと捨ててしまいがちなので、小さなケースなどに入れて保管し、受診時に持参してください。状態が良ければ、そのまま付け直せることもあります。
  • お口の中を清潔に保つ: 穴が空いた部分は食べかすが詰まりやすいので、やさしくうがいをしましょう。
  • 欠けた歯の破片を保管する: 外傷などで歯が大きく欠けた場合、破片を牛乳や歯の保存液に浸して持参すると、元に戻せる可能性があります。 乾燥させないことが重要です。

ケース4:口内炎が治らない・できものができた

ほとんどの口内炎は1〜2週間で自然に治りますが、中には注意が必要なものもあります。

《”ただの口内炎ではない”かもしれない危険なサイン》

  • 同じ場所にできた口内炎が2週間以上治らない
  • 大きさ(直径1cm以上)がどんどん大きくなる
  • 縁が盛り上がっていて、硬いしこりがある
  • 痛みがあまりない、またはしびれがある
  • 赤と白の部分がまだらになっている

これらの症状は、まれに「口腔がん」の初期症状である可能性があります。 口腔がんは早期発見・早期治療が非常に重要です。「いつもの口内炎と違うな」と感じたら、自己判断せず、必ず歯科・口腔外科を受診してください。

《通常の口内炎と見分けるポイント》

通常の口内炎(アフタ性口内炎)注意が必要なできもの(口腔がんの疑い)
治る期間1〜2週間で自然に治ることが多い2週間以上経っても治らない、大きくなる
形・硬さ境界がはっきりした円形、表面は白く、柔らかい境界が不明瞭、硬いしこりがある、表面がデコボコしている
痛み食べ物などが触れると痛い(痛みが強い)痛みが少ない、またはないこともある
1〜数個できることがある基本的には1ヶ所にできることが多い

ケース5:顎が痛い・口が開きにくい

「口を開けるとカクカク音がする」「顎が痛くて大きな口が開けられない」といった症状は、「顎関節症」の可能性があります。

《顎関節症の主な症状》

  • 顎の関節やその周りの筋肉の痛み
  • 口が大きく開けられない(開口障害)
  • 口を開け閉めするときに音が鳴る(関節雑音)

これらの症状に加え、頭痛や肩こり、耳鳴りなどを伴うこともあります。

《こんな時は歯科医院へ相談を》

  • 痛みが強くて食事がしづらい
  • 急に口が開かなくなった
  • 日常生活に支障が出ている

顎関節症の原因は、噛み合わせの問題、歯ぎしり・食いしばり、ストレス、頬杖などの癖など、さまざまです。 歯科医院では、マウスピース(スプリント)治療や、生活習慣の指導などを行います。気になる症状があれば、一度相談してみましょう。

それでも受診をためらう方へ。放置する”3つのリスク”

「やっぱり歯医者は怖い…」「もう少しだけ様子を見ようかな」と思ってしまう気持ちも分かります。しかし、受診を先延ばしにすることで、将来的にもっと大きな負担につながってしまう可能性があることを知っておいてください。

リスク1:治療がどんどん大掛かりになる

はじめは小さな虫歯でも、放置すれば神経の治療が必要になり、さらに放置すれば抜歯に至ることもあります。 歯周病も同様で、最初は歯茎のクリーニングで済んだものが、進行すると歯茎の手術が必要になる場合もあります。早期発見・早期治療が、歯を守るための最大の鍵です。

リスク2:治療費や通院回数が増えてしまう

治療が大掛かりになればなるほど、当然ながら治療にかかる費用も時間も増えてしまいます。 小さな虫歯なら1〜2回の通院、数千円で済む治療が、神経の治療や被せ物が必要になると、数万円の費用と何ヶ月もの通院期間が必要になることも珍しくありません。結果的に、経済的にも時間的にも大きな負担となってしまうのです。

リスク3:全身の健康にも影響が及ぶことも

お口の健康は、全身の健康と密接に関わっています。
例えば、歯周病菌は、血管を通って全身を巡り、糖尿病や心疾患、脳梗塞などのリスクを高めることが知られています。また、しっかり噛めない状態が続くと、消化不良を起こしたり、栄養バランスが偏ったりすることもあります。お口のトラブルを放置することは、全身の健康を損なうことにもつながりかねないのです。

夜間や休日に我慢できない痛みが!そんな時の対処法

「よりによって、歯医者さんが閉まっている週末の夜に痛みが!」という経験、ある方もいらっしゃるかもしれません。そんな時のために、対処法を知っておきましょう。

休日・夜間救急歯科診療を利用する

各地域の歯科医師会などが、休日や夜間の救急歯科診療所を設けている場合があります。 インターネットで「お住まいの地域名 休日夜間歯科診療」などと検索してみてください。 ただし、あくまで応急処置が中心となるため、後日かかりつけの歯科医院で本格的な治療を受ける必要があります。

応急処置で痛みを和らげる

前述したように、痛み止めを飲んだり、患部を冷やしたりすることで、一時的に痛みを抑えることができる場合があります。 しかし、痛みが治まっても安心せず、必ず翌日以降、診療時間内に歯科医院を受診してください。

まとめ:お口の小さな変化を見逃さず、かかりつけ医に相談を

今回は、歯科受診のタイミングについて、さまざまな症状別にご紹介しました。

大切なのは、「症状が軽いうちに相談する」ということです。
私たち歯科医師は、歯を削ったり抜いたりすることだけが仕事ではありません。むしろ、皆さんの大切な歯を1本でも多く、長く健康に保つためのお手伝いをすることが、一番の役割だと考えています。

「こんなことくらいで…」と遠慮せずに、お口のことで気になることがあれば、どうぞ気軽に私たちを頼ってください。定期的な検診を受けていれば、そもそも今回お話ししたような辛い症状が出る前に、問題を発見・対処することができます。

この記事が、あなたの健やかな「お口の健康」を守る一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

Related Posts