「デジタル歯科って何?」最新技術を町の歯医者が体験レポート

こんにちは。
東京都文京区で「おだぎり歯科クリニック」を開業しております、歯科医師の小田切陽子です。

先日、長年通ってくださっている患者さんと、こんなお話になりました。
「先生、最近テレビで『デジタル歯科』って言葉を聞くんですけど、一体何なんですか?なんだか凄そうだけど、よく分からなくて…」。

その気持ち、とてもよく分かります。
歯の治療って、ただでさえ専門用語が多くて分かりにくいイメージがありますよね。
そこに新しい言葉が出てくると、「なんだか難しそう」「治療費が高くなるのかしら?」なんて、不安に感じてしまうかもしれません。

でも、ご安心ください。
この「デジタル歯科」、実は患者さんにとって、とても嬉しいメリットがたくさんある、これからの歯科治療のスタンダードになっていく技術なんです。

この記事では、そんなデジタル歯科の「今」について、私たち町の歯医者さんの視点から、できるだけ分かりやすく、丁寧にご紹介していきたいと思います。
この記事を読み終わる頃には、「なるほど、そういうことだったのね!」と、きっとスッキリしていただけるはずですよ。

そもそも「デジタル歯科」って何?昔の歯医者さんとの違い

ちょっぴり苦手?粘土みたいな「歯の型取り」を思い出してみましょう

皆さんは、歯の治療で「型取り」をした経験はありますか?
ピンク色や緑色の、粘土のようなものをトレーに盛り付けて、お口の中にぐっと押し込む、あの一連の流れです。

独特の匂いや感触がしたり、固まるまでの数分間、じっと待っていなければならなかったり。
特に、嘔吐反射が強い方にとっては、あの時間は本当に辛いものだったかもしれません。
私も歯科医師として、患者さんが苦しそうにされているのを見るたびに、いつも心苦しく感じていました。

実は、この「型取り」こそが、これまでの歯の治療(アナログ治療)の象徴的な工程だったんです。
この型に石膏を流し込んで歯の模型を作り、その模型をもとに、歯科技工士さんという専門の職人さんが、一つひとつ手作業で詰め物や被せ物を作っていました。

デジタル歯科とは「歯の治療のデジタル化」です

では、「デジタル歯科」とは何なのでしょうか。

一言でいうと、これまで歯科技工士さんが手作業で行っていた工程を、コンピューターの技術を使って行う最先端の治療法のことです。

先ほどお話しした、粘土のような材料を使った「型取り」の代わりに、小さなカメラでお口の中を撮影(スキャン)して、パソコン上に歯の形を3Dデータとして再現します。
そして、そのデータをもとにコンピューターが詰め物や被せ物を設計し、機械が自動で削り出して作製するのです。

アナログ治療とデジタル治療、こんなに違います

言葉だけだと少しイメージしにくいかもしれませんので、簡単な比較表にまとめてみました。
これまでの治療と何が違うのか、一目でご理解いただけるかと思います。

項目これまでのアナログ治療最新のデジタル歯科
歯の型取り粘土のような材料(印象材)を使用小型カメラ(口腔内スキャナー)で撮影
患者さんの負担嘔吐反射が出やすい、数分間待つ必要あり撮影時間が短い、不快感がほとんどない
詰め物の作製歯科技工士が手作業で製作コンピューターが設計し、機械が自動で削り出す
完成までの期間1週間〜10日程度最短1日(院内設備による)
精度職人の技術に依存、材料の変形リスクありデータなので変形がなく、非常に精密

このように、デジタル技術の導入によって、歯の治療はより「快適」で「スピーディー」、そして「正確」なものへと進化しているんですよ。

デジタル歯科を支える「三種の神器」をご紹介します

「コンピューターで歯を作る」と言われても、なかなかピンとこないかもしれませんね。
ここでは、デジタル歯科を実現するために活躍してくれる、代表的な機械たちを「三種の神器」としてご紹介します。

①お口の中を撮影する魔法の杖「口腔内スキャナー」

これが、粘土の型取りに代わる画期的な機械です。
ペンのような形をした小型のカメラで、お口の中を優しくなぞるように撮影していきます。

すると、リアルタイムでパソコンのモニターに、ご自身の歯並びがカラフルな3D画像として映し出されるんです。
患者さんも「わあ、すごい!自分の口の中ってこうなってるんだ!」と、興味津々で画面を見ていらっしゃいますよ。
撮影はほんの数分で終わりますし、あの“オエッ”となる不快感もありません。

②パソコン上で歯を設計する頭脳「CAD(キャド)」

口腔内スキャナーで取り込んだ3Dデータをもとに、詰め物や被せ物の形を設計するのが「CAD」というソフトウェアです。
これはまさに、デジタル歯科の「頭脳」にあたる部分ですね。

コンピューター上で、噛み合わせの高さや周りの歯とのバランスをミクロン単位で調整しながら、理想的な歯の形をデザインしていきます。
私たち歯科医師が、患者さん一人ひとりのお口に最適な形になるよう、最終的な微調整を行います。

③自動で白い歯を削り出す職人「CAM(キャム)/ミリングマシン」

CADで設計されたデータは、次に「CAM」という機械に送られます。
これは、設計図通りにセラミックなどの塊を削り出して、歯の形に仕上げてくれる、いわば「腕利きの職人ロボット」です。

機械の中では、小さなドリルがものすごい速さで動き、設計データと寸分違わぬ精密さで、あっという間に美しい白い歯を削り出していきます。
この機械がクリニックにあれば、最短その日のうちに治療が完了する「1dayトリートメント」も可能になるんですよ。

(発展編)模型やマウスピースも作る「3Dプリンター」

最近では、歯科用の「3Dプリンター」も活躍の場を広げています。
スキャンしたデータを元に、歯の模型を立体的にプリントしたり、マウスピース矯正の装置を作ったりと、その用途は様々です。
まさに、未来の歯医者さんの姿が、もうすぐそこまで来ているのを感じますね。

患者さんにとっての3つの大きなメリット【体験談を交えて】

さて、ここまでデジタル歯科の仕組みについてお話ししてきましたが、一番大切なのは「それで、私たち患者にとって何が良いの?」という点ですよね。
私のクリニックでの患者さんとのエピソードも交えながら、3つの大きなメリットをお伝えします。

メリット1:とにかく「快適」で「早い」!〜あの“オエッ”となる型取りはもう不要〜

これは、デジタル歯科がもたらす最大のメリットかもしれません。
先日いらした40代の男性の患者さんは、昔から嘔吐反射がとても強く、歯の治療が大の苦手でした。
「先生、すみません…また型取りがあるかと思うと、ゆうべから眠れなくて…」と、とても緊張した面持ちでおっしゃっていました。

そこで、「大丈夫ですよ。今日はカメラで撮影するだけですからね」とお伝えして口腔内スキャナーを使ってみたところ、「え、もう終わりですか!?全然苦しくなかった!」と、心からホッとした表情をされたのが、私も本当に嬉しかったです。

また、先ほどお話ししたCAM(ミリングマシン)が院内にあるクリニックでは、最短1日で治療が完了します。
朝、歯を削ってスキャンし、お昼休みや買い物の間に機械がセラミックの歯を削り出し、午後にセットして治療終了、という流れも可能です。
忙しくて何度も通院できない方にとっては、これは大きな魅力ですよね。

メリット2:「精密」だから、むし歯が再発しにくい

手作りの温かみももちろん素晴らしいのですが、「精密さ」という点では、やはりデジタル技術に軍配が上がります。

手作業の場合、どうしても模型の材料がわずかに変形したり、製作過程でミクロの誤差が生じたりする可能性がありました。
その小さな隙間から、むし歯菌が入り込んでしまい、数年後にまたむし歯が再発してしまう…というケースも少なくなかったのです。

その点、デジタルデータは変形することがありません。
コンピューター制御で作られた詰め物・被せ物は、歯に吸い付くようにピッタリと適合します。
歯と修復物の間に隙間ができにくいため、むし歯の再発リスクをぐっと抑えることができるんですよ。

メリット3:治療前に「完成形が見える」という大きな安心感

口腔内スキャナーで撮影したデータを使うと、「治療が終わったら、あなたの歯はこんな風に綺麗になりますよ」という治療後のシミュレーション画像をお見せすることができます。

これまでは、銀歯を白い歯に変えたいと思っても、「実際にどんな見た目になるんだろう?」という不安がありましたよね。
治療前に完成形を立体的に確認できることで、「ああ、こんなに自然な見た目になるんですね!」「ここの形は、もう少し丸みを持たせることはできますか?」といった具体的なご相談ができるようになりました。

ご自身の目で見て、しっかり納得してから治療に進める。
これは、患者さんにとって、何よりの安心材料になるのではないかと感じています。

気になる疑問にお答えします!デジタル歯科Q&A

ここまで読んで、「デジタル歯科、なんだか良さそう!」と思っていただけたかもしれません。
最後に、患者さんからよくいただく質問に、Q&A形式でお答えしていきますね。

Q1. 最新技術だから、費用はやっぱり高いの?

「最新=高額」というイメージがあるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。
実は、デジタル歯科で作る白い歯の中には、保険が適用されるものもあるんです。

「CAD/CAM冠(キャドキャムかん)」と呼ばれる、セラミックとプラスチックを混ぜ合わせた素材の被せ物がそれに当たります。
以前は使える歯の場所に制限がありましたが、最近では条件を満たせば奥歯にも使えるようになり、多くの方が保険で白い歯を選べる時代になりました。

もちろん、見た目の美しさや耐久性に優れた、保険適用外(自費診療)のセラミック治療もあります。
どちらを選ぶかは、ご自身の希望やご予算、そしてお口の状態によって変わってきますので、まずはかかりつけの先生に気軽に相談してみてくださいね。

Q2. どこの歯医者さんでも受けられる治療ですか?

残念ながら、現時点では、まだ全ての歯科医院にデジタル歯科の設備が導入されているわけではありません。
これらの機械は非常に高価なため、導入しているクリニックは限られているのが現状です。

もしデジタル歯科治療を受けてみたいと思ったら、クリニックのホームページなどで「口腔内スキャナー導入」や「セレックシステム(デジタル歯科システムの代表的な名称です)対応」といった記載があるか、確認してみるのが良いでしょう。

Q3. 何かデメリットや注意点はありますか?

どんな治療法にも、メリットがあれば注意すべき点もあります。
デジタル歯科の場合、非常に精密な治療が可能ですが、どんな症例にも万能というわけではありません。
例えば、歯茎のずっと下までむし歯が進行しているような複雑なケースでは、従来通りの型取りの方が適している場合もあります。

また、機械が自動で作るといっても、最終的な仕上がりを左右するのは、やはり私たち歯科医師の診断力や技術です。
機械の特性を熟知し、患者さんのお口の状態を正確に診断した上で、最適な治療法を選択することが何よりも大切だと考えています。

まとめ

今回は、「デジタル歯科」について、できるだけ身近に感じていただけるようにお話ししてきましたが、いかがでしたでしょうか。

最後に、この記事のポイントを振り返ってみましょう。

  • デジタル歯科とは、コンピューター技術を使って歯の治療を行う最先端の方法です。
  • 「口腔内スキャナー」のおかげで、不快だった歯の型取りが、快適でスピーディーになりました。
  • コンピューター制御で作る詰め物・被せ物は非常に精密で、むし歯の再発リスクを減らす効果も期待できます。
  • 条件によっては、保険適用で白い歯(CAD/CAM冠)を選べる場合もあります。

技術の進歩によって、歯科治療はどんどん快適で、分かりやすいものに変わってきています。
痛いのが怖い、何度も通うのが大変…そんな理由で歯医者さんから足が遠のいていた方も、ぜひ新しい治療の選択肢があることを知っていただけたら嬉しいです。

ただ、どんなに技術が進んでも、私たち町の歯医者の役割は変わりません。
それは、あなたの健康を、口の中から一緒に守っていくことです。

機械はあくまで、そのための素晴らしい道具の一つ。
一番大切なのは、患者さん一人ひとりのお悩みや希望にしっかりと耳を傾け、心を通わせながら、最適な治療をご提案することだと、私は信じています。

「私の歯の場合はどうなんだろう?」と少しでも気になったら、どうぞお気軽に、かかりつけの先生に相談してみてくださいね。

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