「ママ、歯が痛い!」子どもの急な歯痛、夜間・休日の対処法

「ママ、歯が痛い!」

夕食後や、さあ寝ようという夜中、あるいは楽しみにしていた休日の朝。
お子さんの突然の歯痛の訴えに、思わずドキッとした経験は、子育て中の親御さんなら一度はあるのではないでしょうか。
すぐにでも歯医者さんに連れて行ってあげたいけれど、診療時間外ではどうしたらいいのか、本当に焦ってしまいますよね。

私自身、文京区で「おだぎり歯科クリニック」を開業して20年近くになりますが、急患で来院されるお子さんの多くは、夜間や休日に痛みがピークに達してしまったケースです。
そのたびに、「あの時、どうすればよかったか」と不安そうに尋ねる親御さんの姿を見てきました。

この記事では、歯科医師として、また二児の母としての経験も踏まえ、夜間や休日に子どもの歯痛が起きたときに、親御さんが冷静に、そして安全に痛みを和らげてあげられる具体的な応急処置と、すぐに病院に行くべき危険なサインについて、分かりやすくお伝えします。

この記事を読めば、いざという時も慌てず、お子さんを安心させてあげられるはずです。
一緒に、このピンチを乗り切るための知識を身につけましょう。

【緊急度チェック】子どもの歯痛、すぐに病院へ行くべきサイン

夜間や休日でも、迷わず救急病院や休日夜間急患診療所を受診すべきサインがあります。
歯の痛みだけでなく、全身の症状をよく観察して、緊急性を判断しましょう。

痛みの種類と緊急性の判断基準

歯の痛みの感じ方は、むし歯の進行度によって異なりますが、特に注意が必要なのは、「ズキズキと脈打つような激しい痛み」「冷やしても痛みが治まらない」場合です。

これは、歯の神経(歯髄)まで炎症が及んでいる、いわゆる「歯髄炎」の可能性が高く、細菌が歯の根の先に膿を溜め始めているサインかもしれません。
痛みが強すぎて、お子さんが泣き止まない、眠れないといった状態であれば、応急処置では限界がありますので、夜間でも診療可能な施設を探しましょう。

歯痛以外の症状(発熱、顔の腫れなど)が示す危険信号

歯の炎症が歯の根の先を超えて、周りの組織や骨にまで広がると、全身に影響を及ぼすことがあります。
特に以下の症状が見られる場合は、すぐに救急病院(口腔外科、小児科、内科など)への受診を検討してください。

  • 顔や顎(あご)が大きく腫れている
    • 歯の根の先に溜まった膿が、周囲の組織に広がり始めている可能性があります。
    • 腫れがひどくなると、口が開けにくくなったり、飲み込みにくくなったりする危険があります。
  • 高熱(38度以上)を伴う
    • 発熱は、細菌感染に対する体の防御反応です。
    • 歯の炎症が原因で、顎骨骨髄炎などの重篤な状態を引き起こしている可能性も否定できません。
  • 外傷による歯の破折・脱落
    • 転倒などで歯が折れたり、抜け落ちたりした場合、歯の神経が露出している可能性があり、感染を防ぐためにも緊急の処置が必要です。

応急処置の基本:夜間・休日を乗り切るための5つのステップ

緊急性の高いサインがない場合、まずはご自宅で痛みを和らげるための応急処置を行い、翌日以降に必ず歯科医院を受診しましょう。

ステップ1:まずは患部を冷やす(冷やし方の注意点)

痛みがある場所は炎症を起こし、熱を持っています。
冷やすことで血流が抑えられ、一時的に痛みを軽減する効果が期待できます。

  • 方法:濡れタオルや、タオルで包んだ保冷剤(または氷)を、痛い方の頬全体に当てる。
  • 注意点:冷やしすぎると、かえって刺激になり痛みが強くなることがあります。
    • 保冷剤を直接肌に当てたり、口の中に氷を含ませたりするのは避けてください。
    • 水道水程度の冷たさから試すなど、急激に冷やさないようにしましょう。

ステップ2:痛みを和らげる市販薬(選び方と注意点)

痛みが強い場合は、市販の小児用解熱鎮痛剤を服用させましょう。

  • 選ぶべき成分アセトアミノフェンが主成分の小児用鎮痛剤を選んでください。
    • アセトアミノフェンは、他の鎮痛剤に比べて副作用が出にくく、子どもにも比較的安全に使用できる成分です。
  • 絶対NGな成分:15歳未満の子どもには、アスピリン(アセチルサリチル酸)や、大人用の鎮痛剤(イブプロフェン、ロキソプロフェンなど)は、重篤な副作用を引き起こす危険性があるため、絶対に与えないでください
  • 服用方法:必ずパッケージに記載されている年齢・体重に応じた用法・用量を厳守しましょう。

ステップ3:患部を清潔に保つ(食べかすの除去)

歯の間に食べかすが挟まっていると、それが神経を圧迫して痛みを強めている場合があります。

  • 方法:優しく歯磨きをしたり、デンタルフロス(糸ようじ)を使って、痛む歯の周りの食べかすをそっと取り除いてあげましょう。
  • 注意点:歯ぐきを傷つけないよう、優しく行うことが大切です。

ステップ4:食事の工夫と安静(刺激物を避ける、激しい運動をさせない)

  • 食事:熱いもの、冷たいもの、辛いもの、硬いものなど、歯に刺激を与えるものは避けましょう。
    • おかゆ、ゼリー、プリンなど、口当たりが良く、噛まずに飲み込めるものがおすすめです。
  • 安静:入浴や激しい運動は、血流が良くなり痛みが強くなる原因になります。
    • 痛みが治まるまでは、静かに過ごさせ、体を温めすぎないようにしましょう。

ステップ5:寝かせ方の工夫

夜中に痛みが強くなるのは、横になると頭部に血液が集まり、歯の神経の圧迫が強くなるためです。

  • 方法:枕を高くするなど、上半身を少し起こした状態で寝かせると、痛みが和らぐことがあります。

【歯科医の経験談】急な歯痛の裏に隠された原因トップ3

お子さんの急な歯痛は、むし歯だけが原因とは限りません。
日々の診療でよく見かける、夜間・休日に痛みを訴える原因トップ3をご紹介します。

原因1:進行したむし歯(特に見えにくい奥歯)

最も多い原因は、やはりむし歯です。
乳歯はエナメル質が薄く柔らかいため、大人の歯よりも進行が非常に早く、気づいたときには神経まで達していることがあります。
特に奥歯の溝や歯と歯の間は、親御さんでも見落としがちです。

小田切の視点
「痛い」と言われた時には、すでにむし歯がかなり進行していることが多いです。
「冷たいものがしみる」段階を通り越して、「何もしなくてもズキズキ痛む」のは、神経が炎症を起こしている証拠。この状態は、早急に治療が必要です。

原因2:歯の生え変わりや歯肉炎

子ども特有の原因として、乳歯から永久歯への生え変わりによる痛みも挙げられます。

  • グラグラしている乳歯の周りの歯ぐきが、食べ物や歯磨きで炎症を起こし、痛むことがあります。
  • また、永久歯が下から生えてくる際に、乳歯の神経を圧迫して痛みを感じることもあります。

原因3:外傷(転倒など)

お子さんは転倒などで顔面を強打することが少なくありません。

  • 歯が折れたり欠けたりして、神経が露出すると激しい痛みが生じます。
  • 歯にヒビが入る「歯根破折」も、時間が経ってから細菌感染を起こし、発熱や痛みの原因となることがあります。

やってはいけない!悪化させるNG対処法

良かれと思って行った対処法が、かえって痛みを悪化させたり、危険を伴ったりすることがあります。

患部を温める行為

お風呂にゆっくり浸かる、こたつに入る、痛い部分に温かいタオルを当てるなど、体を温める行為は絶対に避けてください
血行が良くなることで、歯の内部の圧力が上がり、痛みがさらに増してしまいます。

大人用の痛み止めを与える

前述の通り、大人用の鎮痛剤には、子どもには危険な成分(アスピリンなど)が含まれていることがあります。
「半分に割れば大丈夫だろう」と自己判断せず、必ず小児用のアセトアミノフェン製剤を選び、用量を守って使用してください。

患部に直接、正露丸などを詰める

昔ながらの民間療法として、痛みのある歯に直接、鎮痛作用のある薬を詰める方法がありますが、これは歯ぐきや粘膜に炎症を起こす可能性があり、推奨できません。
応急処置は、あくまで「清潔」「冷却」「内服薬」の3つに留めましょう。

夜間・休日の診療体制を知っておこう

応急処置で痛みが一時的に治まっても、原因が解決されたわけではありません。
必ず、翌日以降に歯科医院を受診する必要がありますが、緊急性が高い場合は夜間・休日でも受診が必要です。

日頃から、急な歯痛にも対応してくれるかかりつけの歯科医院を見つけておくことが大切です。
例えば、大阪府の豊中市本町にある「豊中本町歯科クリニック」のように、土日や夜間診療にも対応している小児歯科専門のクリニックを事前に調べておくと安心です。

休日夜間急患診療所の探し方と利用の流れ

多くの自治体では、休日や夜間に急な病気や怪我に対応するための「休日夜間急患診療所」や「救急センター」を設けています。

  1. 検索方法
    • お住まいの市区町村のホームページ(「休日夜間診療」などで検索)
    • 厚生労働省の「医療情報ネット(ナビイ)」
    • 地域の医師会・歯科医師会のホームページ
  2. 利用の流れ
    • 必ず事前に電話で連絡し、症状を伝えて診療可能か確認してください。
    • 急患診療所は、あくまで応急処置を目的としています。根本的な治療は、後日かかりつけの歯科医院で行うことになります。

受診の際の注意点

  • 持参するもの:健康保険証、医療証、母子手帳、お薬手帳(服用中の薬が分かるもの)を忘れずに持参しましょう。
  • 付き添い:小児科や小児歯科では、15歳以下(中学生まで)のお子さんの受診には保護者の付き添いが必要です。

まとめ:歯痛は体からのサイン。応急処置の後は必ず専門医へ

子どもの急な歯痛は、親御さんにとって本当に心配なものです。
しかし、慌てずに冷静に対処すれば、夜間や休日を安全に乗り切ることができます。

【夜間・休日を乗り切るための重要ポイント】

  1. 緊急サインの確認:顔の腫れや高熱がある場合は、迷わず救急病院へ。
  2. 応急処置の基本:患部を冷やし、食べかすを取り除き、アセトアミノフェンの小児用鎮痛剤で痛みをコントロールする。
  3. NG行為の回避:患部を温めること、大人用の痛み止めを与えることは厳禁。

応急処置は、あくまで一時的に痛みを和らげるためのものです。
痛みが治まったからといって放置せず、必ず翌日以降に歯科医院を受診し、痛みの根本原因を突き止め、適切な治療を受けさせてあげてください。

「健康は口から始まる」という私の信念のもと、これからも皆さんの子育てを、お口の健康という側面からサポートしていきたいと思っています。
何か不安なことがあれば、いつでもかかりつけの歯科医に相談してくださいね。

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