食事中に突然、口の中で「カチッ」と固いものを感じて取り出してみたら——銀歯だった。そんな経験はありませんか?
こんにちは、文京区でおだぎり歯科クリニックを営んでおります、歯科医師の小田切陽子です。開業して20年近くが経ちますが、「食事中に銀歯が取れてしまった」「気づいたら銀歯がなくなっていた」というご相談は、今でも本当によくお耳にします。そのたびに患者さんのパニックした表情を見るたびに、「あらかじめ知っておいてほしいなあ」と思うのです。
銀歯が取れた直後は、誰でも焦るもの。でも大丈夫。正しい応急処置を知っておけば、落ち着いて対応できます。この記事では、銀歯が取れたときにまずすべきこと、やってはいけないNG行動、放置した場合のリスク、そして歯科医院での治療の流れまで、丁寧にお伝えします。「いざというとき」のために、ぜひ最後まで読んでいただければ幸いです。
目次
銀歯が取れる原因——なぜ突然外れてしまうの?
銀歯が突然取れると「なんで?」と思いますよね。実は、原因はひとつではなく、複数の要因が絡み合っていることが多いのです。診察室でよくお聞きするケースをまとめると、おおよそ以下の通りです。
- セメント(接着剤)の劣化:銀歯を歯に固定するための歯科用接着材(セメント)は、口の中の湿度や温度変化によって少しずつ劣化します。一般的に銀歯の寿命は5〜7年ほどといわれており、年数が経つと接着力が弱まり、ちょっとした拍子に外れやすくなります。
- 銀歯の下にできた虫歯(二次カリエス):銀歯と歯の隙間から細菌が侵入し、内部でひそかに虫歯が進行することがあります。歯が溶けると銀歯を支える土台が失われ、ポロッと外れてしまうのです。
- 咬み合わせや歯ぎしり・食いしばり:長年の噛む力や、無意識の歯ぎしり・食いしばりによって銀歯に変形や歪みが生じ、歯との適合が悪くなることがあります。
- 粘着性の高い食べ物:キャラメルやガム、おもちなどを噛んだ拍子に、取れかかっていた銀歯がそのまま外れてしまうケースも少なくありません。
「銀歯が取れた=悪いことをした」というわけではありません。多くの場合、時間の経過や口腔内の環境変化によって起こる、ある意味「自然なこと」ともいえます。ただし、放置は禁物。原因によってはすぐに治療が必要なこともあるため、まずは落ち着いて対処することが大切です。
銀歯が取れたらまず何をする?5つの応急処置
すぐに歯科医院に行けない場合でも、この5つのステップで乗り越えられます。診察室にいらっしゃる前に、ぜひ実践してみてください。
① 取れた銀歯を保管する
まず、取れた銀歯は絶対に捨てないでください。状態によっては消毒・洗浄して再装着できる場合があり、その場合は費用も時間も大幅に節約できます。
保管方法として気をつけていただきたいのが、ティッシュに包まないこと。うっかり捨ててしまったり、変形させてしまう原因になります。チャック付きのポリ袋や小さな蓋つき容器に入れ、安全な場所に保管しておきましょう。清潔な水で軽く洗ってからしまっておくとなおよいですね。
② 取れた部分の場所を確認し、その側で噛まない
どの歯の銀歯が取れたかを確認し、その側では食事をしないよう意識しましょう。銀歯が取れた歯は、内部が露出していて非常に脆くなっています。硬いものを噛んだ拍子に歯が欠けたり、割れたりすることがありますので、食事は反対側の歯でそっとするのがベストです。
また、柔らかくて刺激の少ない食べ物を選ぶことも大切。極端に熱いものや冷たいもの、硬いせんべいやナッツ類、粘着質のキャラメル類などは要注意です。
③ 口の中を清潔に保つ
銀歯が取れた部分は穴が空いた状態になり、食べかすや汚れが溜まりやすくなっています。虫歯や歯周病がさらに進行しないよう、やわらかめの歯ブラシで優しく汚れを取り除きましょう。うがいもこまめに行うと効果的です。
タフトブラシ(先端が小さく細い歯ブラシ)があれば、取れた部分にそっとあてて清掃すると、より丁寧にケアできます。ゴシゴシと強くこすると歯が傷つくことがあるので、あくまでもやさしく、が原則です。
④ 痛みがある場合の対処法
銀歯が取れた後に痛みや知覚過敏(しみる感じ)がある場合は、市販の鎮痛剤を用法・用量を守って使用しても構いません。また、痛みが強いときは、頬の外側から薄いタオルに包んだ保冷剤を当てて冷やすと、一時的に和らぐことがあります。ただし、患部に直接氷を当てたり長時間冷やすのは逆効果になることもあるので注意してください。
⑤ できるだけ早く歯科医院を予約する
応急処置はあくまでも「つなぎ」です。取れてから1週間以内、できれば数日以内に歯科医院を受診することを強くおすすめします。隣の歯や噛み合わせの歯が動いてきてしまうと、元の銀歯が戻せなくなることもあります。早ければ早いほど、治療はシンプルに済む可能性が高いのです。
やってはいけない!銀歯が取れたときの4つのNG行動
「とりあえず戻しておけばいいかな」「接着剤でくっつければ大丈夫?」——そんな思いにかられる気持ち、よくわかります。でも、これらの行動は状況を悪化させてしまうことがあるので、どうかご注意ください。
NG① 取れた銀歯を自分で戻す
穴が空いたままにしておくのは気になりますよね。でも、銀歯を自分で元の位置にはめ直すのは危険です。食事中に再び外れて、誤って飲み込んでしまうリスクがありますし、歯茎に刺さってケガをする可能性もあります。また、無理な力が加わって歯が欠ける原因にもなりかねません。
NG② 市販の瞬間接着剤で固定する
「瞬間接着剤でくっつければいいじゃないか」と思う方もいらっしゃいますが、これは絶対にやめてください。市販の接着剤の成分は歯や歯茎に悪影響を与えることがあり、また虫歯菌を銀歯の中に封じ込めてしまい、症状を急速に悪化させることがあります。銀歯を付けるのは、専用の歯科用セメントを使う歯科医師だけに認められた行為です。
NG③ 取れた部分を指や舌で触り続ける
口の中に穴が空いていると、気になってついつい舌で触れてしまいますよね。でも、その行為が刺激になって神経に痛みが走ることがあります。また、銀歯が取れた歯は通常より脆い状態ですので、頻繁に触れることでダメージを与えてしまうこともあります。
NG④ 「痛くないから大丈夫」と放置する
これが一番危険です。銀歯が取れても、すぐに痛みが出ないことは珍しくありません。なぜなら、神経のない歯(根管治療済みの歯)は痛みを感じにくいからです。痛みがなくても、内部では虫歯が静かに進行しています。「痛くなってから行けばいい」では、手遅れになってしまうことも。
放置するとどうなるの?知っておきたいリスク
「忙しいから、もう少し後でいいか」——そう思う気持ちはよくわかります。でも、正直にお伝えしないといけません。銀歯が取れたまま放置すると、時間の経過とともにどんどん状況は悪くなっていきます。
| 放置期間の目安 | 起こりうること |
|---|---|
| 数日〜1週間 | 隣の歯が傾いてきて元の銀歯が入らなくなる場合がある |
| 1ヶ月 | 露出した象牙質に虫歯が始まることが多い |
| 3ヶ月 | 虫歯が神経近くまで進行することがある |
| 半年以上 | 歯が欠ける・歯周病・口臭・噛み合わせの悪化・最悪の場合は抜歯 |
特に怖いのは、噛み合わせの崩れです。銀歯が取れた部分に歯がなくなると、隣の歯や噛み合わせの歯が少しずつ動いてきます。すると、顎関節への負担が増し、頭痛や顎の痛みにつながることもあります。
また、虫歯が神経まで達してしまうと、根管治療(いわゆる神経を抜く治療)が必要になり、治療の回数も費用も格段に増えます。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、「むし歯により崩壊した歯質は再石灰化等により自然に回復することはありません。歯科治療が必要になります」と明記されています。早期治療こそが、歯を守る最善策なのです。
歯科医院ではどんな治療をするの?
実際に歯科医院を受診したら、どのような流れになるのでしょうか。状態によって異なりますが、主なパターンは3つです。
パターン1:再装着(一番早くて安心!)
取れた銀歯に問題がなく、銀歯の下の歯にも虫歯や欠けがなければ、消毒・洗浄のうえで再装着できる場合があります。この場合は1〜2回の通院で完結し、費用も最小限に抑えられます。銀歯を持参することが大切なのはこのためです。
パターン2:新しく銀歯を作り直す
銀歯が変形していたり、虫歯が生じていたりして再利用できない場合は、新たに作り直します。型取りが必要なため、2〜3回の通院が必要になります。保険診療で対応できるため、費用の負担は比較的軽くて済みます。
パターン3:別の素材への変更
繰り返し銀歯が外れる場合や、金属アレルギーが心配な方には、セラミックやコンポジットレジン(白い樹脂素材)など、別の素材への変更もご提案できます。見た目にも自然で、銀歯よりも虫歯になりにくい素材もありますよ。
銀歯が取れないようにするために——再発予防のポイント
「また取れたら嫌だな」そう思うのは当然ですよね。銀歯が取れるのを完全に防ぐことはできませんが、リスクを減らすことはできます。
- 定期検診を受ける(3〜6ヶ月に1回が目安)
- 歯ぎしり・食いしばりが気になる方はマウスピースを検討する
- 粘着性の高い食べ物を食べるときは注意する
- 日頃から丁寧な歯磨きで口腔内を清潔に保つ
日本歯科医師会では、「お口の健康は全身の健康につながる」として、かかりつけ歯科医を持ち、定期的に歯科健診を受けることを推奨しています(日本歯科医師会 公式サイト)。定期検診を習慣にすることで、銀歯の劣化や虫歯の早期発見につながりますし、万が一異常があっても素早く対応できます。
私のクリニックでも、定期検診のたびに「あの銀歯ちょっとゆるくなってきてますね」とお伝えできることがあります。問題が小さいうちに対処できれば、患者さんの負担も最小限に済む——これが定期検診の一番の価値だと、20年間患者さんと向き合ってきて、改めて感じています。
まとめ
銀歯が取れたときに、まず頭に入れておいてほしいポイントをおさらいします。
- 取れた銀歯は捨てずにチャック付き袋などで保管する
- 取れた側では噛まない、口の中を清潔に保つ
- 瞬間接着剤や自己判断での装着は絶対にNG
- 痛みがなくても放置しない。早めに歯科医院を受診する
- 定期検診で予防できることも多い
「健康は口から始まる」——これは私がずっと大切にしてきた信念です。銀歯が取れた出来事を、自分のお口の健康を見直すきっかけにしていただけたら、こんなにうれしいことはありません。
「なんとなく気になっていたけど……」という方も、ぜひお気軽に歯科医院に足を運んでみてください。どうか焦らず、でも早めに、ご対応くださいね。