こんにちは。東京都文京区で「おだぎり歯科クリニック」を開いている、歯科医師の小田切陽子です。
日々の診療で患者さんとお話ししていると、「先生、毎日お茶を飲むんですけど、歯の色がだんだん黄ばんできた気がして…」「お茶って、虫歯予防に良いって聞くけど、本当ですか?」といったご質問をよくいただきます。
何を隠そう、私自身も大の和菓子好き。休日に自分で練り切りを作っては、美味しい緑茶を淹れて一息つくのが至福の時間なんです。美味しい和菓子には、香り高いお茶が欠かせませんよね。
だからこそ、皆さんが抱えるそのお悩み、とてもよく分かります。
「お茶が好きだけど、歯の着色は気になる…」
「虫歯にならないように、本当はどうすればいいの?」
この記事では、そんなあなたの疑問にお答えします。お茶が持つ歯への良い効果と、少し注意が必要な点を正しく理解して、大好きな和菓子やお茶を心から楽しみながら、白く健康な歯を保つための具体的な方法を、和菓子好きの歯医者ならではの視点でお伝えしていきますね。
目次
まずは知って安心!お茶が持つ、お口への嬉しい効果
「お茶は歯に良くない」と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、お茶には私たちの口の健康を守ってくれる嬉しい効果がたくさんあるんですよ。
虫歯菌の働きを抑える「カテキン」の力
緑茶の渋みの主成分である「カテキン」。このカテキンはポリフェノールの一種で、私たちの健康に様々な良い影響を与えてくれることで知られています。
実は、お口の中でも大活躍してくれるんです。カテキンには、虫歯の原因となるミュータンス菌の増殖を抑えたり、菌が歯垢(プラーク)を作り出すのを防いだりする働きがあります。
食事をすると、お口の中は酸性に傾き、歯の表面が溶けやすい状態になります。カテキンは、この酸が作られるのを抑制してくれる、頼もしい味方なんですよ。
歯を強くする味方「フッ素」
歯磨き粉の成分としておなじみの「フッ素」。実は、緑茶などの茶葉にも自然に含まれています。
フッ素には、
- 歯の表面のエナメル質を強くし、酸に溶けにくい歯を作る
- ごく初期の虫歯(歯の表面が溶け始めた状態)の修復(再石灰化)を助ける
といった大切な役割があります。 毎日お茶を飲むことで、自然な形でフッ素を摂取し、歯を強くすることに繋がるんですね。東北大学の研究では、緑茶を1日に4杯以上飲む高齢者の方は、飲まない方に比べて歯が約1.6本も多く残っていた、という興味深いデータも報告されています。
気になる口臭予防にも
カテキンには優れた抗菌作用や消臭作用があるため、口臭の原因となる細菌の繁殖を抑える効果も期待できます。 食後にお茶を一杯飲む習慣は、お口の中をさっぱりさせるだけでなく、エチケットの面でも理にかなっていると言えますね。
一方で…気になる「着色汚れ(ステイン)」の正体とは?
さて、ここまではお茶の良い面をお話ししてきましたが、皆さんが一番気にされているのは、やはり「歯の黄ばみ」ではないでしょうか。この黄ばみの正体は、「ステイン」と呼ばれる着色汚れです。
なぜお茶を飲むと歯が色づくの?
歯の表面は、一見するとツルツルに見えますが、実は「ペリクル」という唾液由来の薄いタンパク質の膜で覆われています。このペリクルは、歯を酸から守ってくれる大切な役割があるのですが、同時に色素を吸着しやすい性質も持っています。
お茶に含まれるポリフェノールの一種「タンニン」が、このペリクルに結合することで、ステインとなって歯に付着してしまうのです。 湯呑みに茶渋がつくのと同じ原理ですね。一度ついてしまうと、毎日の歯磨きだけではなかなか落としにくいのが特徴です。
要注意!特にステインが付きやすいお茶の種類
お茶の種類によって、ステインの付きやすさには違いがあります。一般的に、タンニンの含有量が多いお茶ほど、着色しやすい傾向にあります。
- 着色しやすいお茶:紅茶、ウーロン茶、緑茶、ほうじ茶
- 比較的着色しにくいお茶:麦茶、ルイボスティー、そば茶
もし着色が気になるようでしたら、日常的に飲むお茶を麦茶などに変えてみるのも一つの方法です。
あなたは大丈夫?ステインが付きやすい人チェックリスト
同じようにお茶を飲んでいても、ステインが付きやすい人とそうでない人がいます。ご自身の習慣をチェックしてみましょう。
| チェック項目 | なぜリスクが高いの? |
|---|---|
| ☐ 口が乾きやすい(口呼吸、薬の副作用など) | 唾液にはお口の中を洗い流す自浄作用があります。唾液が少ないと、色素が歯に留まりやすくなります。 |
| ☐ 歯の表面がザラザラしている気がする | 歯の表面に細かい傷や凹凸があると、そこに色素が入り込みやすくなります。 |
| ☐ 歯磨きが少し雑かもしれない | 磨き残した歯垢(プラーク)に色素が沈着し、より頑固な汚れになります。 |
| ☐ 濃いお茶をちびちびと長時間飲むのが好き | 歯がお茶に触れている時間が長いほど、着色のリスクは高まります。 |
| ☐ 喫煙習慣がある | タバコのヤニ(タール)は粘着性が高く、ステインと結びついてさらに歯を黄ばませる原因になります。 |
一つでも当てはまる方は、次にご紹介するケア習慣をぜひ取り入れてみてくださいね。
和菓子好きの私が実践!お茶と上手に付き合う5つの口腔ケア習慣
「着色が怖いから、お茶や和菓子を我慢しなきゃ…」なんて思う必要は全くありません。ちょっとしたコツを知って習慣にするだけで、お口の健康を守りながら、ティータイムを存分に楽しむことができますよ。
習慣1:飲んだら「お水」でお口をリセット
一番簡単で、そしてとても効果的なのが、お茶や和菓子を楽しんだ後に、お水(常温か白湯がおすすめです)を一杯飲むことです。
お水を飲むことで、
- お口の中に残ったお茶の成分や和菓子の糖分を洗い流す
- お口の中が酸性に傾くのを中和する
といった効果が期待できます。外出先で歯磨きができない時でも、お口をゆすぐだけでも全然違いますよ。
習慣2:和菓子やおやつは「だらだら食べ」をしない
あんこを使ったお饅頭や羊羹など、粘り気のある和菓子は、歯の溝や表面に残りやすい特徴があります。
問題なのは、糖分がお口の中に「長時間」留まること。時間を決めずにだらだらと食べ続けると、その間ずっとお口の中が酸性の状態になり、虫歯のリスクがぐっと高まってしまいます。
おやつは「時間を決めて、楽しく集中して食べる」。そして、食べ終わったらケアをする。このメリハリが、歯を守る上でとても大切です。
習慣3:歯磨きのベストタイミングとケアのコツ
食後の歯磨きは、食べかすや歯垢を取り除く基本のケアです。できるだけ食後早めに行うのが理想的ですね。
ステイン対策としては、着色汚れの除去を助ける成分が配合された歯磨き粉を選ぶのもおすすめです。
- ポリエチレングリコール(PEG):タバコのヤニなどを浮かせて除去する効果が期待できます。
- ポリリン酸ナトリウム:ステインを浮かせて剥がし、さらに歯をコーティングして再付着を防ぐ効果があります。
歯磨き粉の裏の成分表示を、少し気にしてみてはいかがでしょうか。ただし、研磨剤が多く含まれているものでゴシゴシ磨きすぎると、歯の表面を傷つけて逆に着色しやすくなることもあるので、優しい力で磨くことを忘れないでくださいね。
習慣4:就寝前のケアをゴールデンタイムに
一日のうちで、最も虫歯になりやすい時間帯はいつだと思いますか?
実は、「就寝中」なんです。眠っている間は唾液の分泌量が大幅に減るため、お口の中の細菌が活発になりやすいのです。
ですから、就寝前の歯磨きは一日の総仕上げ。フロスや歯間ブラシも使って、歯と歯の間の汚れまで丁寧に落としてあげましょう。もちろん、寝る直前にお茶を飲むのは、着色の観点からも避けた方が賢明です。
習慣5:半年に一度は歯医者さんで「プロの掃除」を
毎日丁寧にセルフケアをしていても、残念ながら全ての汚れを完璧に落としきることは難しいものです。特に、歯石や沈着してしまったステインは、ご家庭のケアでは除去できません。
そこでおすすめしたいのが、歯科医院での定期的なクリーニングです。 「PMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)」と呼ばれる専門的なお掃除では、専用の機器とペーストを使って、歯の表面をツルツルに磨き上げます。
歯が本来の白さを取り戻せるだけでなく、汚れが付きにくい状態になるので、虫歯や歯周病の予防にも繋がります。いわば、お口の「大掃除」。半年に一度を目安に、ぜひかかりつけの歯医者さんで受けてみてください。
小田切先生に質問!お茶と口腔ケアのQ&A
クリニックで患者さんからよくいただく質問を、いくつかご紹介しますね。
Q. 一度ついてしまったステインは、歯磨きで白く戻りますか?
A. 歯の表面に付いたばかりの軽い着色であれば、先ほどご紹介したようなステイン除去効果のある歯磨き粉で薄くなる可能性はあります。しかし、残念ながら、長期間かけて沈着してしまった頑固なステインを歯磨きだけで完全に落とすのは困難です。そういった場合は、無理に自分でこすったりせず、歯科医院のクリーニングで安全にきれいにしてもらうのが一番の近道ですよ。
Q. 子どもの歯の着色も、大人と同じようにケアすれば良いですか?
A. はい、基本的な考え方は同じです。お子さんの場合も、お茶やジュース、色の濃いおやつなどが着色の原因になることが多いですね。 飲んだり食べたりした後は、お水やお茶(麦茶などがおすすめです)を飲ませたり、うがいをさせたりする習慣をつけましょう。ただし、お子さんの歯(特に生えたての永久歯)はエナメル質が大人より未熟で柔らかいので、研磨剤の入った歯磨き粉の使用は避け、保護者の方が優しい力で仕上げ磨きをしてあげることが大切です。
Q. 歯科医院のクリーニングは保険がききますか?
A. とても良い質問ですね。歯科医院でのクリーニングには、目的によって「保険診療」と「自費診療」の2種類があります。
- 保険診療:歯周病の検査や診断に基づき、治療の一環として行われる「歯石除去」が主な目的です。この場合、費用は3割負担で3,000円〜4,000円程度が目安です。
- 自費診療:病気の治療ではなく、「着色を落として歯をきれいにしたい」「虫歯や歯周病を徹底的に予防したい」といった審美や予防が目的の場合です。PMTCやエアフローといった施術がこれにあたり、費用は医院によって異なりますが、5,000円〜15,000円程度が一般的です。
どちらがご自身に適しているか、かかりつけの先生と相談してみてくださいね。
まとめ
いかがでしたでしょうか。お茶と私たちの歯との関係、そして上手な付き合い方が見えてきたかと思います。
最後に、大切なポイントを振り返っておきましょう。
- お茶には嬉しい効果がたくさん:カテキンやフッ素の力で、虫歯や口臭を予防してくれます。
- 着色(ステイン)の原因はタンニン:お茶を飲んだ後は、お水で口をゆすぐ習慣をつけましょう。
- 和菓子は時間を決めて楽しむ:「だらだら食べ」は避け、食後のケアを忘れずに行いましょう。
- 寝る前の歯磨きは丁寧に:就寝中はリスクが高まるため、一日で最も重要なケアタイムです。
- プロのケアを味方につける:半年に一度の歯科検診とクリーニングで、セルフケアでは落とせない汚れをリセットしましょう。
大切なのは、「我慢」することではなく、「賢く付き合う」ことです。正しい知識を持ってきちんとケアをすれば、大好きなお茶も、美味しい和菓子も、罪悪感なく心から楽しむことができます。
この記事が、あなたの素敵なティータイムと、健やかなお口の健康を守る一助となれば、歯科医師として、そして一人の和菓子好きとして、これほど嬉しいことはありません。